夏の花火があがる頃
第11話 加害者になった日
 その日は休みにした。

 朝から自分の症状がひどくなることが分かっていたからだ。

 物が散乱する部屋の中で、何度も吐き気に襲われながら、震える体を押さえつけた。
 
 この日は毎年こうなる。

 忘れようとしても忘れられない贖罪が、身体の奥深くからめぐみを縛り、呪いをかける。

 花火大会の当日のことだった。

 浴衣を着て、草履を履いて、精一杯のおしゃれをした。

 明るく優しい慎吾のことが好きだった。

 信じてほしい一心で、悠也にも協力を頼んだがあまりうまくはいかなかった。

 その日は、慎吾は終始不機嫌だった。

 というよりも、ずっと慎吾は不機嫌だった。

 駅で待ち合わせた時も、彼はめぐみのことを見てもいなかった。

 初めて付き合う彼氏の変化にどうすればいいのか分からなかった。

 ただ彼の歩く後ろについて歩き、様子を伺うことしかできない。
 
 母親と最後に一緒に出かけたのも花火大会の日だった。

 不機嫌そうな母親に手を引かれて、特に何を買ってもらったわけでもなかった。

 通りすがりに、母親に連れられて、りんご飴を買ってもらう他人の女の子が羨ましくて、羨ましくて仕方がなかった。

 だが、「帰る」と言われるのが嫌で何も言わず機嫌だけ伺っていた。

 全く同じ状態になっていることに、不安を覚えた。

 慎吾が消えてしまうのかもしれない。

 そう思った。

「慎吾……」

 遠慮がちに声をかけた。

 向かっている場所は花火大会がある場所ではなく、商業道路がある方向だった。

 スピードを出してトラックや車がたくさん走っている。

「なあ、めぐみ」

「な、何……?」

「お前さ、悠也のこと好きなんだろ?」

「違う。慎吾、落ち着いて」

「落ち着けるわけないよな。自分の彼女が親友のこと好きなんだぜ。しかもその親友も彼女のことが好きだって俺は知ってる」

 確かに悠也のことは好きだった。

 それは友人としてだ。

 慎吾に対する感情とは違った。

 慎吾と離れるつもりも悠也の方へ行くつもりも毛頭なかった。

 暖かい陽だまりのような慎吾との関係は、ずっとひとりぼっちだっためぐみにとって必要な時間だった。

 その暖かさの中で一生を添い遂げたい。

 そのように思っていた。
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