夏の花火があがる頃
第2話 忘れられない人
 土砂降りの雨が降ると、沢口悠也は、とある二人のことを思い出す。

 出会った日も土砂降りの雨の日だった。

 都内にある屈指の有名私立大学に進学し、将来に一抹の不安も感じていなかった。

 奨学金で学費が免除となっていたし、ゼミの教授からは有名企業の推薦枠を与えてやると言われており、将来は約束されていた。

 顔も整っており、背も高かったので、女性に困るといった経験もなかった。

 自分が好きだと言えば、女性は喜んで付き合うと思っていた。

 幼い頃から、そういったことも踏まえて、やっかみも受けてきたが、なぜそこまで恋愛において酔狂になれるのか理解不能だった。

 もっと他にやることあるだろ。

 嫉妬を受ければ受けるほど、他者を見下すような気持ちにしかなれない。

 自分はきっと他の人間と違うのだろうと、半ば世界において諦めにも近い感情を抱いていた時に、出会ったのが篠原めぐみだった。

 きっかけは、友人である槇野慎吾(まきのしんご)が、非常に好みの子がいるので声をかけに行きたいと言うので、仕方なくついて行ったことだった。

 慎吾は中学時代からの親友で、家も近所でありよくゲームをして遊ぶ仲間だった。

 悠也が唯一心を開いて話ができると自負できる友人であった。

 兄弟にも近い存在である彼が好きだという女の子とは、どのようなものかと半ば野次馬心で覗きに行った際に、恋に落ちたのは悠也の方だった。

 黒く長い髪の毛に、華奢な身体。豊満な胸とは言い難いが、白い肌から想像するに綺麗な色をしているのだろうと見たこともない部分を想像する。

 大学デビューだと色めき立つ同級生たちとは、違う場所にいるように見えた。

「な、可愛いだろ。篠原めぐみちゃん」

「別に。普通じゃん」

 恋に落ちるといった経験のない悠也は、自分の中に生まれた感情がどのようなものなのか、理解をしていなかった。

「なー、なんて声をかけたらいいと思う?」

「知らねえよ」

「なんだよ。慣れてるだろ」

「人聞きの悪い事言うなよ。この授業大変ですねとか当たり障りのない事聞いておけばいいんだよ」

「なるほど!」

 臆病な癖に、変に大胆なところがある慎吾は、悠也をその場に置いて、めぐみのところへ駆けて行った。

 急に知らない人間から声をかけられて、嫌がるかと思いきや、めぐみはあっけらかんとした表情で「よろしくね!」とすぐに慎吾と仲良くなっていた。

「こいつは、俺の友達で沢口悠也。女にはだらしないから気をつけろよ」

「お前は人を落とすようにしか紹介できないんか!」

「あはは、よろしく。悠也くん」

 笑顔で笑うめぐみの顔を見て、胸の内がなんとも言えず切なくなった。
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