夏の花火があがる頃
 頭がぼーっとする。

 こめかみの奥が痛い。

 その日は、自分の部屋にいた。

 悠也は海外に出張しに行くとのことだった。

 柏木といい、悠也といい、頭のいい男は海外に飛んでいく。

 きっとめぐみはずっと日本にいるのだろうと思う。

 変わることもしないまま、変われもしないままずっとこの国で生きて行く。

 コンテストの締め切りが迫っていた。

 簡単な課題だと思っていたが、幸せが分からない今、何を描けばいいのかすら分からない。
 
 あんなに頑張ると豪語していたにも関わらず、行動を起こせていない。
 
 大きなため息をついて、汚い部屋の中を眺めた。

 片付ける気力も起きない。

 あんなに気を使っていた料理ですら、する気は起きず、コンビニで買ってきた清涼飲料水を飲んでいるだけである。

 締め切った窓の外から、蝉の鳴き声だけが聞こえてきた。

 クーラーで冷えきった部屋の中では、蝉の声は季節外れのようだ。

 動ける気がしなくて、めぐみはベッドの中にもぐりこんだ。

 瞳を閉じてしまえば楽だった。

 考えなくてはいけないことから、目を逸らしている時間は、ホッとする。
 
 悠也の隣も、めぐみにとってはそんな場所だった。

 安心するし、目を逸らしていられる。

 だが、いつまでも悠也の隣に止まってはいられない。

 現実に帰らなければならない時は必ず来るのだ。

 こんな時、母親に相談することが出来たら、どんなにいいだろう。

 幼い頃から悩むとそんな妄想をした。

 無駄だとわかっていてもせずにはいられなかった。

 だから母に縋りたいときは鏡を見る。

 あの頃、めぐみの手を引いて夏祭りに連れて行ってくれた母と、めぐみは同い年だ。

「……」

 鏡の中の母は、ひどくやつれた表情を浮かべていた。

< 51 / 75 >

この作品をシェア

pagetop