夏の花火があがる頃
第13話 中途半端
 悠也に渡したいものがあると呼び出されたのは、彼が出張から帰ってきた次の日だった。

 バンコクに出張に行っていたらしい彼は、二、三日の間のはずだったのにも関わらず少しばかり日に焼けていた。

「出張土産」

 その一言と共に渡されたのは、一粒のパールのネックレスだった。虹色に輝くパールは、小さなダイヤモンドと共に装飾されている。

「え……」

「大した品じゃないけど、それ見た時に思い出したから」

「受け取れない……」 

 悠也には彼女がいる。

 彼には共に人生を歩む人間が他にいるのだ。

 めぐみは、彼に甘えて、依存して忘れていたことだった。

「返されても俺捨てるだけだから」

 声に少しばかりの怒りが滲んでいるように感じた。

 どのような言葉をかければ良いのか分からずに、めぐみは小さな箱を手にしたまま、俯いた。
 
 悠也の考えていることがわからないほど、初心ではない。
 
 柏木との関係も中途半端、慎吾のことに対しても吹っ切れている訳ではない。
 
 そんな中、悠也にどのような対応をすべきなのか分からなかった。

 贅沢な悩みなのかもしれないが、その贅沢を味わえる身分ではないはずだ。

「迷惑?」

 ため息混じりに尋ねられて、めぐみは首を横に振った。気持ちは嬉しい。

 顔を上げると、ホッとしたような表情を浮かべる悠也がいた。

「めぐみ……俺……」

 悠也はその先の言葉は述べなかった。
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