夏の花火があがる頃
大学生の頃から、住んでいる場所は池袋から動いていない。
奨学金をもらっていたが、悠也の家は裕福だった。
母親がどうしても住む場所はセキュリティがしっかりしているところが良いと言い張ったのだ。
自宅に戻り、ため息をつく。
未練がましくこのマンションに住んでいるのは、彼女の訪問を待っているからだ。
いつかめぐみがこのマンションを訪ねて来てくれるのではないかと、一抹の淡い期待を抱いている。
冷蔵庫の中を開けると、箱買いしている二リットルのミネラルウォーターと、エナジードリンクが大量に入っている。
料理はしない。
いや、できないと言っても過言ではないだろう。
「料理の才能だけ、どこかに置いてきたんだね」と言ったのは、紛れもなくめぐみだったはずだ。
シャワーを浴びて、コップ一杯の水を一気に飲み干す。
渇いた身体に、冷やされた水が染み渡っていく。
疲れたので、髪の毛も乾かさず、ベッドに倒れこんだ。
スマートフォンを手に取ると、萌からメッセージが入っている。
「今日はありがとう。いろいろとごめんね」
謝る必要はない。
そう思いつつも、返信が出来ないのは、複雑な思いがあるからだった。
悠也はそのメッセージを読んだ後、スマートフォンをベッドの隣に置いてあるサイドテーブルに置いて、瞳を閉じた。