夏の花火があがる頃
その日、一日の仕事を終えて会社に戻ると、ちょうど帰宅する直前の宮舘と鉢合わせした。
結局、悠也に会うことはなかったが、緊張していた糸が切れたのか、気持ちも体もぐったりしていた。
「お疲れ!」
「宮舘さん。お疲れ様です」
「どう?仕事の進捗は?」
「まずまずだと思います」
「まずまずって何よ、自信持って」
遠慮がちなめぐみの回答に、宮舘は彼女の方をポンと叩いた。
「はい……」
「なんかあったの?元気ないね」
普段と様子が違うと、宮舘は心配そうな表情を浮かべて、めぐみの顔を覗き込んだ。
やはり子供を育てている女性は、人の機微に気がつくのがうまい。
しかし、悩んでいることは、仕事と関係のないことだ。それを宮舘に押し付けてしまっていいのだろうか。
「いえ、ちょっと今日は暑かったので、バテていただけですよ」
「そうなの?あんまり無理しないようにね」
これから保育園に息子を迎えに行くの。と宮舘は帰宅して行った。
言わなくて、正解だった。
昔のことをわざわざ丁寧に思い出して、言葉にする必要はどこにもない。
これから夏がやってくるのだ。
このくらいのことで、いちいち動揺していたら、この夏を乗り越えることなど不可能だ。
そうやって、めぐみは自分を無理矢理納得させて、残りの仕事に取り掛かる。
しかし、ひどく落ち込んだ気持ちを仕事では払拭出来ず、深いため息ばかりついた。