お前なんか!!~世間知らずなお嬢さまは執事を所望する~

彩乃の変化


球技大会も終わり、つかの間の平穏が訪れた。岬は、期末にこそ彩乃を抜くと決めて猛勉強をしていた。登下校を彩乃と一緒にしているから、追い込みは主に屋敷に帰って執事の仕事を終えてからだ。彩乃の執事の仕事は実にシンプルだ。帰宅後に彩乃宛の取引会社の子息からの手紙の仕分け(社長の令嬢らしくラインを軽々しく交換することはない)、それからリビングでの母親とのお茶の用意、夕食後は読書を好む彩乃の為に本の差し入れをしたりする。彩乃が眠ってからが、岬の勉強時間だった。

夜中に勉強をするようになってから一週間ほど過ぎたころだろうか。岬の部屋のドアをノックする音がして、こんな夜中に誰が、と思ったら、彩乃の母親だった。

「ごめんなさいね、お勉強中に……」

彼女はそう言って岬の部屋に入って来た。

「奥様、なにかありましたか?」

普段だったら彩乃が居ない時にこの人が岬に用事などない筈だった。彼女は、彩乃の事なんだけど、と前置きして、こう言った。

「最近、元気がないように思うのよ。学校でいじめられたりしてるんじゃないかと心配になって……」

あの子、世間知らずでしょう。母親はそう言った。
< 20 / 33 >

この作品をシェア

pagetop