お前なんか!!~世間知らずなお嬢さまは執事を所望する~

彩乃がいじめられっ子になっていたら、どれほど気が清々しただろうか。しかし現実として彩乃は周りの生徒に受け入れられ、人気者になっている。それを岬が苦々しく思っているとは、この母親も知らない。

「学校では一年の生徒の人気者ですし、上級生からも好意的に受け止められているようです。元気がないようには……」

見受けられなかったですよ。

そう断言しようとして、ここ最近の彩乃の行動の変化を思いついた。そう言えばあれだけ遠慮なく岬の教室に来ていたのも、何処か岬の機嫌を窺うように扉のところで待つようになっていた。昔はそれが当たり前過ぎて、その頃に戻ったようで気分が良くて気が付かなかったが、変わったといえば変わっただろう。

「なにか、思い当たることがあるの?」

母親に聞かれて、その理由までは思い至らなかった。

「きっと、新しい環境で緊張してたのが、ちょっと気が抜けたんでしょう。ご友人に恵まれて過ごしていますから、心配されることはないと思います」

岬がそう言うと、母親も、そう……、と言って岬の部屋を後にした。岬はそのドアを見つめて、そして机に向き直った。

彩乃の元気がないのはざまあみろという気分だが、それが自分の所為でないというのはなんとも悔しい思いだ。彩乃をコテンパンにするのは、岬でなければ意味がない。彩乃の元気がない理由はなんだろう、と岬は少し考えた。

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