お前なんか!!~世間知らずなお嬢さまは執事を所望する~


彩乃の欠席は三日を超えた。執事として放って置けない状況で、彩乃の部屋のドアをノックする。か細い声で返事があり、部屋に入る旨を伝えると、岬は彩乃の私室に入った。

「彩乃さん、体調はどうですか?」

岬はベッドに寝ている彩乃に近寄りその場にしゃがんだ。彩乃がベッドに横たわったまま岬を見る。眉が寄せられていてお腹が痛そうだ。薬は効いていないのだろうか。

「お薬は飲みましたか? お昼は……」

摂りましたか? そう聞こうと思ったら、名前を呼ばれた。

「岬くん……、やさしいのね……。私、岬くんの事無理やり……」

その後の言葉が続かない。彩乃さん? と呼び掛けると、やはりか細い声が返った。

「岬くんがやさしいのは……、私が病気だから……?」

何を当たり前のことを聞いているのだろう。病気の人に冷たくした覚えはない。

「そりゃ、そうですよ。学校でも彩乃さんのこと心配してますよ。早く治して……」

ください。そう言おうとしたら、彩乃の声が被った。

「だったら、治らなくていい」

泣きそうな顔をする彩乃に、何故かぎゅっと胸が締め付けられる。潤んで涙を零しそうな瞳がきれいだと思った。泣くのを我慢している唇はきゅっと引き結ばれていて、彩乃が本当に病気が治らなくて良いと思っていることを示していた。

意志の強い目が岬を見つめている。女の子に見つめられることなんていっぱい経験してきたのに、急にどくんどくんと胸の鼓動が走り出して、潤んだ目や紅潮した頬をした彩乃に触れたいと思ってしまった。
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