お前なんか!!~世間知らずなお嬢さまは執事を所望する~
リビングではマルたち親子が寛いでいて、まるで宮田家の猫のようだ。キャットフードは過去岬の家で与えていたものと同等のものを与えられ、マルたちは完全に彩乃に懐いた。動物を手懐けるのは容易い。胃袋を掴めばいいのだから。しかし岬はそうはならない、と思った。
「岬くんの噂が私の学校まで聞こえてるわ」
優雅に紅茶を飲みながら、彩乃が微笑んだ。
「そうですか。どのような?」
彩乃が腰掛けるテーブルから一歩引いた壁側に立って、岬は奥歯を噛みしめながら穏やかに応えた。
「成績優秀、スポーツ万能、やさしい性格で他校生にも人気があるとか」
「そうですか」
「本当なの?」
ちょっと岬の顔色をうかがうような目。どうしてそんな目で見られなきゃいけないのか分からないが、尋ねられたからには応えないわけにはいかない。岬は、そうですね、とだけ答えた。