お前なんか!!~世間知らずなお嬢さまは執事を所望する~
「ふふ。でも、そんな岬くんは、私の執事ですもの。嬉しいわ」
小鳥が歌を歌うように言われても、全然嬉しくない。むしろ、またこめかみの血管がちぎれそうになるほどに歯を食いしばってしまう。
(お前なんか、本当だったら俺の小間使いにしてやるくらいの身分だったのに……!!)
これ以上我慢していたら顔の表情筋が変に動きそうだと思って、岬は彩乃の前を辞した。廊下を歩いてあてがわれた部屋に戻る。ぱたんと後ろ手にドアを締めれば誰も……、マルたちすらいない部屋。
(あの女ああああーーーーーっ!!)
声に出すわけにはいかないので、心の中で罵倒しながら、枕を何度も殴りつける。ふかふかの枕がボスンボスンとへこんでは膨らむ。力任せに殴りつけて、気が収まる頃には肩で息をしていた。
「なんで、俺が……っ、あんな女に傅かなくちゃならないんだ……っ!」
挙句、自分のもの呼ばわりされて。
叫び出したいのを堪えて、小さな声で呟く。この屋敷に来て以来、何度繰り返したか分からない呟きを、今日も零してしまう。それほどに、今の岬の環境は、岬にとって受け入れがたいものだった。
(いつか、あの得意げな顔をぎゃふんと言わせてやる……!)
今日も今日とてそう決意する岬だった。