チョコレートリボン
「・・・」

それから約40分後。

美容院の鏡に映った自分の姿に、私はぼう然となっていた。

「かわいいカールヘア」なんて、絶対にゆるふわな感じになると思った。

けれど今、鏡の中に映っているのは、ぐりんぐりんのカールがかかった、予想外のヘアスタイルだ。


(バッハ・・・!バッハだコレ・・・!)


学生時代、音楽室に飾られていた偉人の肖像画を思い出す。

髪の色は違うけど、これは完全にバッハじゃないか・・・。

「・・・」

「かわいい!めっちゃかわいいですよ、おねーさん!!」

沈む私とは裏腹に、美容師の男の子は、お世辞でも誤魔化す風でもなくて、自分が作ったヘアスタイルを純粋に賞賛している。

個性的な感じの男の子だし、普通とは「かわいい」の基準が違っているのかもしれない。

私は泣きたくなってきた。

「あ、あの・・・これ、とれませんか」

申し訳ないけれど。ストレートに直してほしい。

だってこれから、私はデートなんだもの・・・。

私がおずおず伝えると、男の子はグッ!と右の親指を立て、なにやらいそいそ持ってきた。

そして。


プシューッ!!


突然、男の子は私の髪にスプレーをした。

そして、得意げな顔で再び右親指を立てて言う。

「がっちりスプレーしときましたから!!簡単にはとれませんよ!!」
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