白き髪のガーネット【改訂版】
「いい加減”兄様”から格上げしてほしいな。二人きりの時くらいは、呼び捨てでいい。
……”クウォン”って、呼んでくれないか?」
「!っ……い、いきなりっ?
そ、そんなの……無理、だよっ」
確かにずっと、”兄様”なんて呼びたくないと思ってはいた。
”クウォン”と呼ぶ日を心待ちにしていた。
けど、いざとなると恥ずかしいーー。
でも。真っ赤になって視線をチラチラと泳がせる私を、クー兄様は今度はニコニコしながら見つめてくる。期待の、眼差しだ。
「っ……。
ク、……クー……ッ。……クウォ、ン」
彼の気持ちと期待に応えたくて、私は俯きながら頑張って名前を呼んだ。
すごくドキドキして心臓が飛び出そう。
しかし、肝心の相手の反応がない。
「?……ク、クウォン?」
どうしたのかと思って顔を上げると、そこには私と同じように顔を真っ赤にした……。いや、私以上に顔を真っ赤にしたクウォンがいた。
「っ……ヤバいね。
想像以上に、嬉しくて照れる」
そう言った、クウォンの柔らかく緩んだ表情。胸が、きゅんっとときめく。
「っ……可愛い」
愛おしさが込み上げて、私の口から思わずそんな言葉が漏れた。ずっとずっと、格好良いって思ってた彼の新たな一面。
ーー好き。大好きっ!
「クウォン、愛してるわ」
「俺も、愛してる。ガーネット」
この瞬間、私達は確かに"兄妹"という関係からようやく卒業出来たと実感した。
クウォンの手が私の頬にそっと添えられて、ゆっくりと私達の唇が重なる。
それは初めての、キス。
心臓の音が自分でも分かるくらいにうるさくて、絶対に彼に聞こえていると思った。
「っ……」
唇が離れて間近で見つめられるなんて、耐えられない。私は唇が離れた瞬間にクウォンに素早く抱き付いて顔を隠す。
そんな私の様子に、彼がクスクスと微笑ったまさに幸せの絶頂。
でも、私とクウォンの未来には、ある運命が立ちはだかっていた……。
「ーーほう。
これはこれは、仲睦まじい事だな」
部屋の扉がガチャッと開いて、低い、太い声が聞こえた。
その気配と言葉に視線を向けると、そこに居たのはクウォンによく似た紅い燃える夕陽のような髪と瞳の、中年男性……。
「ーーッ、父、上!」
ーーえっ、?!
クウォンの口から放たれた言葉と、私の事を咄嗟に自分の背後に隠そうとする様子に驚く。