白き髪のガーネット【改訂版】
この世界で女性が他国に嫁ぐ、という事は"今までの生活や家を忘れる"という事に近い。
ミラがノクテ様と結婚すれば、彼女はもうノクテ様のものであり、水の国の人間。二度とこの炎の国に戻ってくる事もなければ、従姉弟とはいえ……ましてや異性である俺と会う事なんてご法度だ。
婚儀の際に、もう一度その姿を見る事は可能だろうが、ゆっくりと話が出来るのは今夜を逃したら二度と訪れないだろう。
……そう分かりながらも、俺は動く事が出来ない。静かな自室で眠る訳でもないのにベッドの上で横になり、ただただ無情に時間が経っていくだけだ。
現実に足掻く力も、現実を受け入れる器もない弱虫な俺ーー。
やりきれない気持ちが爆破しかかって、身近にあった枕を掴み投げて八つ当たりをしようとした時だった。
コンコンッ、と部屋の扉を叩く音にハッとして、更に続く声が行動を止める。
「クウォン?私です。もう休んでしまいましたか?」
!!っ……ミラ。
それは聞き間違える筈のない、そして避けながらも本当はずっと待ち望んでいた声だった。……けど、…………。
「夜にごめんなさい。
……もし良かったら、最後にお話しませんか?」
「!っ……」
最後ーー。
ミラのその言葉が、また弱虫な俺を素直にはさせなかった。
俺がもっと大人ならば……。いや、いっその事もっと子供だったならば素直になれたのだろうか?
大好きな女性との距離はたった扉一枚。この扉を開けて、例え叶わない恋であっても一生懸命に気持ちを口に出来たのだろうか?
ーーー行かないで、ミラ!
ずっと俺の傍に居てッ……!!ーーー
その結果が彼女を困らせる事になったとしても、俺の気持ちを伝えるべきだったのかもしれない。
この時ちゃんと別れをしなかった事を、俺は一生後悔するのだから……。