私の好きな彼は私の親友が好きで
其々の未来
5年ぶりに見た美月は、前よりも綺麗になっていた。
もともと、柔らかい雰囲気を持っていたが、更に温和な表情で
友人の桐谷さんと談笑している。
「行かないのか?」そう言いながら肩を叩いたのは省吾だった。
「よっ!久しぶりだな。」
「ちょっと、バタバタして・・ま、落ち着いたから又飲みに行こう。
で、声かけなくて良いのか?」
「タイミングをみている」
「相変わらずチキンだな。逃すぞ」
「5年。連絡無いからな・・」
「何時、帰国したのかも知らないのか?」
「俺と美月の事知っているの、お前と桐谷さんだけだから。」
「陽菜を忘れているぞ」
「あいつか、もう良いよ」
「だなぁ」
あれから3年間は誰とも付き合わなかった。
流石に、もう戻って来ないと何処かで悟り、新入社員の女の子に
告白されて付き合い始めた。
でも、彼女を部屋に呼ぶことは出来なくて・・
もし、美月が帰国して訪ねて来て、鉢合わせになる事が怖かった。
会社を知っている美月が訪ねてくるかも、と期待していた自分が居たから、
一緒に会社を出る事もしなかった。
彼女を抱くのもホテルだった。
何度も訪ねたい、手料理をと言われたが、断り続けていた。
あの部屋は俺と美月の部屋。
それでも、その子に愛情が全くなかったわけでは無い。
ただ、美月を求める気持ちが強かっただけ。
自分の手の中にあった幸せを、みすみす手放してしまった後悔。
最後に抱いた時の美月の熱量、静かに泣いていた涙。
それが脳裏から離れる事が無かった。
後悔、懺悔、そんな気持ちの方が彼女に対する気持ちより大きくて。
部屋に呼ばない事への不信感が、やがてスキと言う気持ちより
膨らんでいったのは仕方が無かったと、今なら思えるけれど、
浮気もしていないのに、疑われたりする言動に苛立つこともあった。
美月なら、と思っていた自分も居た。
そんな時に、納涼会で珍しく呑み過ぎた自覚はあった。
気が付いたら、彼女とホテルに入って、抱いて抱いて抱き潰した
覚えはあった。
途中、美月を抱いている錯覚に落ちていた。
あ~漸く俺の所に戻ってきたと、泣くほど嬉しかった夢をみていた。
そんな俺に抱かれた彼女は、本当は直ぐにでも帰りたかったのだろうが、
抱き潰し、何回も、何回も彼女の中に白濁とした欲を吐き出され
満足に歩く事が出来なくなっていた。
そして、悲し気に笑った。
「亮介さん、ミツキ、ミツキと何度も何度も呼んでいました。」
「ごめん・・」
「もう、会わない方が良いですね。」
「・・・・・」
あっけなく終わった。
それから、会社で彼女を見かけても目を逸らされて・・
それが、辛いと感じるよりホッとする気持ちの方が大きかった。
1度、陽菜を街中で見かけた・・やはり彼女は彼女だった。
蝶のように、貪欲に花の蜜を求めて舞っている・・
どうして、彼女に惹かれたのだろうか、若かった自分に言葉を掛ける事を
許されるなら人間の本質を見ろと伝えたい・・
恋した事を後悔する恋愛はやめとけと・・・
1番会いたい君には偶然でも会う事が無い現実に、部屋に帰り、
美月と最後に会った日に買ったヌイグルミにそっと触れた。