私の好きな彼は私の親友が好きで
省吾に引きずられるように入った店は個室のある居酒屋・・
熱いおしぼりを出され、自分の気持ちを抑える為に顔を拭くと、
頭の靄が少しだけ晴れた気がする・・
「俺、陽菜とあれから話してない・・」
「うん。知ってる・・」
「どういう事だと思う?」
少し考え込み省吾が口にしたのは
「運が悪かったのかも・・」
「運?」
「そう、運・・納得は出来ないかもしれないけど・・」
「納得出来ねーよ。」
「美月が居なくなってから、亮介は何か行動したか?」
「・・・」
「俺達は美月の生活すら知らなかった・・でも、桐谷さんは知っていたよね
桐谷さんに聞けば、美月の実家に辿り着いたんじゃないかな
今日の桐谷さんを見ていたら、意地悪で美月の事を隠そうと
していたんじゃないと俺は感じた・・
俺達が、美月自身を知ろうとしていなかった事を
責められているような気がしてた・・」
「俺、桐谷さんに美月の就職先とか、エントリーした会社が何社かとか
聴かれて答えられなかった・・」
「あの時、俺もそれをお前から聴かれて・・考えさせられたよ・・
昔から言わないか?チャンスの神様は前髪しかないって・・俺達は
その前髪を掴み損ねたんだ。」

あんなに美月を思って過ごした5年。

自分の知らない所で、他人の手に寄って俺達の運命は完全にすれ違ってしまった。
< 102 / 105 >

この作品をシェア

pagetop