私の好きな彼は私の親友が好きで
「美月と付き合いたいと思う男子が、告白を諦めるのは
そんな石原君が何時も、美月の側から離れないからだよ。
そんな餌付けシーンを見て、告白出来るほど、強メンタルの持ち主は
居ないって事だよ。そんな鈍感な男子でも気が付くのに
誰よりも傍に居る安西さんが、2人の関係に気が付かない訳がないでしょ?」
「陽菜ちゃんは少し天然で、純粋だから・・気が付かないのかも・・」
「フっ おめでたいね」
「な、な何を・・」
「安西さん、入学して暫くして直ぐに、斎藤君と付き合っていたよ。」
「斎藤って 省吾?」
「そ、」
「でも、省吾は当時 地元に幼馴染の恋人がいて」
「そんな細かい内情は知らないけれど・・一度、私の前に2人で座っていて
斎藤君、安西さんのスカートの中に、手を入れていたのを見たわよ」
「え・・」真っ赤になる俺を尻目に続ける
「講義が終わって2人で直ぐに居なくなって、暫く戻って来なかったから
何をしていたかは、中学生だって解るでしょ?そんな人が純粋?あり得ないから。」
待って、桐谷さんからの情報の凄さに処理しきれない脳。
あの2人が付き合っていた。
でも、省吾から遠距離恋愛が上手くいってない
なんて聞いていないし、大学2年になるタイミングで、地元の短大を卒業した
幼馴染の彼女が東京に就職して、今も付き合っている。
え、どう言う事?
「石原君が思っているほど、安西さんは奥手ちゃん、じゃないってこと
別に安西さんの恋愛事情なんて、どうでも良いの。そんな彼女が石原君と美月の
関係に気が付かない筈がないって言いたかっただけから。」
省吾と陽菜ちゃんが・・知らなかった。
あの2人は今は別れたのか?
省吾は幼馴染と上手くいっていると言っていたが・・
ダメだ、整理しきれない。
省吾は浮気していたのか?
今も二股か?
あ~ それも今はどうでも良い。 美月の事だ。
「美月は入学して直ぐの頃から石原君を意識していたの。
美月は幼稚園から高校まで女子高育ちだから、接し方なんて解らなくて、
毎日、ワチャワチャしてた。でも運よく石原君と仲良くなれて
それは、それは喜んでいた。誰の眼から見ても恋しているのは
解り易かった。それを親友と宣う安西さんが、気付かなかったとしたら
失笑ものだわ。」
「3か月前に、安西さんが急に石原君に興味を持ち始めたの。
それで、美月に『石原君に付き合っている人が居ないなら、頑張りたいから
応援して』と言ったのよ。美月が自分で石原君と寝ているから、手を出さないで!
なんて言えないのも、織り込み済みで美月に相談したのよ。それが親友のやる事?」
美月の性格では黙って頷くの精一杯だろう。
「美月、凄く悩んでいたよ。私には石原君の名前は最後まで
口にしなかったけれどね。君に思いを伝えなさいと話したけれど、
両想いの2人の邪魔をしているの一点張りでね。」
「美月は石原君に大事にされていると言う自信が無かった。
自分はただのセフレだからってね。もし、自信があったら
安西さんに向き合えたかもしれないね。
安西さんに向き合う前に,石原君に向き合っていたか・・
美月は2人が付き合って、自分の前で仲良くされる事に
耐えられないと言って、私達の前から居なくなる決断をしたの」
「居なくなる?」
「もう、日本にはいないよ・・」
「え・・何処に?」
「それは言えないけれど、日本には居ない。」
(日本に居ない・・日本にいない)頭の中で桐谷さんの言葉が
リフレインし続ける。
「い い 何時?」
「日曜日。」
あの日だ。用事があるから陽菜ちゃんとランチが出来なくなったから
と呼び出された日。
用事って飛行機に搭乗することだった・・
あの時、俺の横を通り過ぎた美月の腕を掴んで
用事を食い下がって聞いたら、美月は未だ俺の隣にいた?
美月は俺の横を通ったのに・・手を伸ばせば捕まえらえたのに、
最初からあの日は陽菜ちゃんとはランチする予定じゃなかったんだ。
「あの、 桐谷さん トラットリア井上を知ってる?」
「知ってるよ。何回か行っているよ。」
「美月と?」
「そう。」
予約の名前を陽菜ちゃんは「高遠です」と言っていた。
桐谷さんが「フッ」と苦笑いした。
「石原君はどうしたかったの?」
「どうしたかったって?」
「安西さんと・・」
正直、何も考えていなかった。
「この間、安西さん、石原君の腕に絡まっていたよね。
あれが美月の見たくなかった事だよね。
美月が逃げ出して正解だった。と私はあの時に思った。
君はその腕を振りほどく事もしなかったからね。
それが日常になっていくんだよ。貴方たち2人の仲で。
で、それを傍で見る美月の事を少しでも考えた事あった?
美月との関係を、どうやって終わらせるつもりだった?
安西さんと付き合うからもう、お前とは寝ない!って言うつもりだった?
普通、そんなことを言ったら、美月と安西さんの友情も無くなるよね?
2人で笑い合って腕を組んで歩くのを美月がどう思うか考えた?」
そう矢継ぎ早に口にする桐谷さんの眼からは、涙が零れていた。
何も言い返せなかった。
「石原君、中途半端な優しさは、却って傷つけるだけだよ。
腕を振りほどかなかったのは、優しさだったとしても、
その人には優しくても、他の人にはナイフで抉られえるような
痛みになることもあるよ。
美月が同じことを、他の誰かにされたら、君はどう思った?」
「陽菜ちゃんとは付き合うことは無い・・」
「フッ、それは美月が居なくなったからでしょ?
美月が未だ此処に居たら、違う結果になっていたんじゃない?」
『モタモタしていると取り返しがつかなくなるよ。』
最後の夜に、美月が俺に口にした言葉を思い出した。
あの言葉は・・・
「桐谷さんは美月と連絡取れるの?」
「それは、教えない。
美月が日本にスマホを置いて行ったのか、捨てたのか、壊したのか、
持って行ったのかは解らないけれど、連絡がつかないのは
そこに美月の決断が表れているから、私は美月の意思を尊重する。」
「石原君、連絡してどうするの?謝るの?
謝ってスッキリするのは君だけだよね。
美月に帰って来て?って言うの? 行くのに莫大な費用と労力を
掛けているのに、それを無駄にさせる権利ある?
今、君が連絡しても何もかもが、中途半端な結果しか生まない。
それでも連絡先知りたい?」
”知りたい!”なんて言える訳ない。
黙って首を振るしか出来なかった。
「美月は自分で悩んで、苦しんで自分で決断したの。
それを尊重してあげて。」
彼女は未だ、泣いていた。
そうだ、俺は桐谷さんから親友の傍に居る事も奪ったんだ。