私の好きな彼は私の親友が好きで

イルミネーションを見るのに外に出ると、一陣の風に馴れない
ハイヒールも相まって、足元がグラっとした瞬間、大きな手が
腰を抱いた。
その、温もりが温かく、恥ずかしいのに、その手がそのまま
私から離れないで欲しいと願う。

「ありがとうございます。 転ばないですみました。」
「役得でこちらこそ、有難う」

お互いにお礼を言い合い、又笑った。

「美月ちゃん、考えたんだけれど飯島美月になって
高遠ホールディングスに就職しない?」
「へ?」
「そうしたら、高遠社長も安心するし、君は縁故だと知られないし、
俺の会社と高遠ホールディングスは、目と鼻の先だから安心できる、
皆がウィンウィンになれよね。」
とニッコリ笑い、
「我ながらナイスな解決だ!」としたり顔をしている。

(何かが違う。)

そう、心では叫んでいるのに、その顔を見ると口からは何も
言葉が出なかった。

ここで否定しておけば良かったのに・・私はその横顔に見惚れてしまう。

「さぁ、そろそろ 丁度いい時間だから部屋に戻ろう」と、腕時計を見て
促される。

腰に手を回された状態のまま部屋に。
部屋に戻ると甘い香りが漂い、母達の弾む声が聴こえていた。

私達の姿を観てもその事に、母達は何も言わないし、気にも留めてない様子に
腰に手が回っていた事さえ忘れるくらい、彼の手は私の腰にフィットしていた。

甘い香りの正体は4人で食べきるのに、丁度いいサイズのクリスマスケーキ。
百合さんが、「薫も少しは女心が解るようになったのね。」の言葉から
薫さんが手配してくれた事が伺われた。

本当にこの人は大人だ。

今まで、何人の女性を喜ばせたのだろうか?と過去の女性に嫉妬する。
バカみたい そんな立場じゃないのに・・・
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、薫さんは私の腰の手を離さないまま、
ソファーに誘う。

母と百合さんが並んで座っていて、自ずと私達も並んで座る。
でも、その距離が拳1個分も離れておらず、油断して膝の力を緩めると
薫さんの脚に触れそうな距離だった。

母達が宝石のようなイチゴがのったケーキを、シャンパンで食している姿に
何時か、こんな大人になれるのだろうか?と思いながら、綺麗にネイルされ、
シャンパングラスの細い脚を優雅に持つ所作や、薫さんのさり気ない
サプライズに、大人には敵わないと思った。

サーブしてくれたボーイさんが居なくなるタイミングを待っていたかのように
薫さんがいきなり爆弾を落とす。

「近いうちに美月ちゃんが飯島美月になって、高遠ホールディングスに
就職する事に決まりました。当面、今 僕が住んでいるマンションに
住むことになりますが、美月ちゃんが気に入らなかったら、引っ越しします。」
と、ニッコリ微笑んで母達に宣言した。
その笑みは、穏やかなキラースマイルではあるが、私にはライオンの眼のように
狙った獲物は逃さないぞ!と言いたげな眼にみえて仕方が無かった。

私が否定の言葉を口にするよりも早く母が

「百合ちゃん、私達家族よ! 家族よ!これからは
毎年、クリスマスは一緒に、この部屋で過ごしましょう!」
「キャー 学生時代の夢が叶うわね。親友と家族になれるなんて!」

私は、唖然として薫さんを見る。

薫さんは平然と「これで、全部の懸念材料がクリアされたよね。」
「ま ま 待ってください。いくらなんでも展開が早くて追いつかないです」

もっと何かを言おうと思っていると、信じられない声が私の耳に入る。

「俊之さん、美月ちゃんが薫君と結婚を決めてくれて、しかも俊之さんの会社に
就職してくれると決めてくれたの。」
「誠さん、薫と美月ちゃんとの結婚が決まったわ。
あ~私も念願の娘が出来るわ、嬉しい。そうよ!誠さんも
孫の顔を見ないとね。」

2人の母がスマホを片手に其々の配偶者に、今日のお見合いの結果を報告していた。
< 43 / 105 >

この作品をシェア

pagetop