私の好きな彼は私の親友が好きで

開いた口が塞がらないとはこの事だ。
酔っぱらっている母2人なら、明日は忘れているかもと
思っていたのに、父に報告されたら・・明日には私の席が
会社に出来ているに決まっている、そういう父だ。

・・逃げ場がもう無い。

ガックリと首を垂れていると、通話を終えた百合さんが私に
「美月ちゃん、薫と結婚すると決めてくれて有難う。
主人が体調を崩して、主人なりに頑張って、社会復帰するまでに
回復したけれど、決定打が無かったの。元の様にエネルギッシュな主人には
ほど遠くて・・でも、薫の結婚で、まだまだ俺が頑張ってカッコいい
おじいちゃんになると言ってくれたの。有難う。」と言って目の端に
涙を溜めていた。

そんな顔を見たら何も言えない・・

別に言いたくも無かったかもしれない。
だって心地良かったんだ。一緒にいて。
でも、これはあくまでも色々な諸事情が絡んだ結婚なのだと
飯島家の事情を聴いて思った。
純粋に私を、と少しでも思った私がバカだった。
考えてみたら当たり前だ。
亮介より何十倍もハイスペックな男性が
セフレ1人繋ぎ留められない私に、何かを抱くわけが、無いのだ・・・
色々な優しさは、大人としての立ち回りの仕方なのだろう。

「どうした?急に元気が無くなったけれど?」隣から優しい声が聴こえる。
「なんか、急展開過ぎて疲れちゃった・・」
「そうか、じゃあ、お風呂入ってユックリしたら?」
「そうしようかな・・」

私は、3人に「お先に」と声かけてお風呂場に逃げ込んだ。
夜景を見ながら、バラの香りのお風呂に浸かると、
自然と涙が一筋頬を伝った。

この涙が、なんの涙なのか解らなかった。

混乱しているだけ。それだけ。
今日会ったばかりの人に抱いた感情は、敢えて知らぬふりをした。
もう、色々なことで傷つきたくなかったから。

脱衣場を見ると、いつの間にか、私の好きなブランドのパジャマが置いてあった。
モフモフしていて肌触りも良く、デザインも可愛い。
これはクリスマス限定商品で、手に入らなかった物だ・・
フードにはウサギの耳が付いていて、お揃いのショートパンツには
尻尾も付いている。
母はどうやってこれを手に入れられたのだろう?
考えるのは止そう。どうせ、解る訳ない。
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