私の好きな彼は私の親友が好きで
幸せになっても良いですか
12時チェックアウトし、それぞれの車に乗り家路についた。
家では満面の笑みで、父が迎えてくれ、昨日の様子を、
母から聴き、ご満悦の表情。
私は部屋に入り、デパートから届いた商品の中でニットワンピースを
取り出し、ジーとそれを眺めた。
先程の父の顔、私の将来の道が決まりつつあった。それに抗うつもりは
無いけれど、決着をつけないと、ならない事も解っていた。
そのワンピースを着て、静かに家を出る。
向かった先は、大学のある駅。
久しぶりに降り立つ駅。
何も変わっていない事に安心する反面、自分が今から向かう
先の事を思い、足が震える。
その気持ちを緩和させるために、飲み会の後に陽菜と省吾を捲いた、
コンビニに足を踏み入れ、気持ちを落ち着かせたかった。
何の気なしに商品を手に取っていると
「美月?」と声を掛けられる。
私はその聞き覚えのある声に固まり、
振り向くのに首が、油の切れたロボットのように
ギコギコギコと不自然に振り向くと
可愛らしい陽菜の姿・・・
なんで?なんで? なんで今なの?
「陽菜、久しぶり。」
絞り出すように出た声は、想像以上に掠れている。
「本当だよ! 帰って来ているなら連絡してよ。」
「いや、クリスマス休暇だから・・・、」咄嗟につく嘘。
「そっか、だから亮介も知らないんだね。」
(亮介、今 亮介って呼び捨てにした。前は亮介君だった。)
あ~そうか、そうなのか・・・
ふと、陽菜の持っている買い物かごを見ると、そこには
亮介の好きだったミルクティー、陽菜の好きなジュースのペットボトルに
隠されるように避妊具が入っていた。
それから目が離せない私に
「美月、なんでここに居るの?」
「あの、大学に用事があって・・」
「そうなんだ。途中まで一緒に行こう!」
「あ、私は用事済んだ帰りだよ。もう帰らないと!」
そう、口にして慌ててコンビニを出る。
大学の方に一緒にって 亮介の家に向かうって事か・・
やっぱり、付き合っていたんだ。
ミルクティーと避妊具、行く方向。
その現実に胸が苦しくなり、息が出来ない・・
そして、私は又泣いている。
どうして、クリスマスに亮介を訪ねようと思ったんだろう。
それは、何処か期待していたから。
セフレじゃなくて彼女だったと。
陽菜と付き合わないで、私の帰りを待ってくれている。
心の何処かで期待していた。
せめてもの救いは、部屋の前に立たないで済んだことだ。
陽菜と亮介のヤッテいる声なんて聴きたくなかったから・・
でも、心が折れそうだ。イヤ、折れてしまった。
涙が頬を伝い、止まらない。
クリスマスに、こんな状態で電車には乗れない。
そのまま、タクシー乗り場に向かい、後部座先に
ボロボロの自分を沈めた。
女性の運転手さんが困ったように
「どちら迄?」と遠慮がちの声に、私はさっきまで居た
ホテルの名前を告げた。
運転手さんは、助手席に置いてあったティッシュボックスを
そっと差し出してくれた。
その様子をコンビニから陽菜が、ジッと見ていたのを
美月は知る由もない。
陽菜は、タクシーに乗り込んだ美月を確認すると
持っていた商品を全て元に戻し、コンビニを出て
改札を通った。
電車の中で偶然、美月を見つけ、亮介の住んでいる駅で降りたので、
陽菜も、慌てて下車した。
「途中下車して時間を無駄にしてしまったけれど、
クリスマスの今日、人生で一番素晴らしいプレゼントを貰えた。」
そう、綺麗な美月が嫉妬と絶望で歪んだ顔を!
陽菜は素晴らしく良い気分で、その駅を後にした。