私の好きな彼は私の親友が好きで
カツカツと、この場に少し相応しくない位の早歩きの靴音。
顔を上げなくても解る。私の前に立ったその人は
私を何も言わないで、その大きな身体で抱きしめる。
「心配した。」
「ゴメンなさい。」
「身体が凄く冷えている。」
「忙しいのに、来てもらってスミマセン。」
「今の俺の1番の重要事項は、美月ちゃんだから。」
クリスマスのイルミネーション下、男女が抱き合っていても
余り目立たない。それでも、目立つ・・
「薫さん、恥ずかしい・・」
「美月ちゃんにメッセージ入れたのに、既読にならなくて、
電話もした。嫌われたのかと思って・・
美穂さんから電話貰って・・居ないって・・
凄く、凄く 心配したから もう少しだけ・・実感させて。」
「ゴメンなさい。」
「取り合えず 寒いから・・」そう口にして歩く私達。
私の視界に月が輝いているのが目に入った。
「私は何時になったら、お日様になれるのだろう」
月を見ながら、思わず呟いていた。
「万有引力の法則で、月と地球の間に、引力が存在する。
月が無かったら、引力が無くなって、1日のサイクルは
24Hじゃなく、18Hくらいになると言われてし、
月が無いと地軸が傾き、太陽が当たらなくなり、
地球で人は生きられないって知っているか?
太陽だけが全てじゃない。それに俺は、何時も同じ形の物よりも
時には形を変えて、楽しませてくれる方が良い。
月を愛でると言うが、太陽を愛でるとは表現しない。
俺は月を愛でていたいと思う。」
その言葉に私は又、涙を零すがそれは、さっきまでの苦しい涙では無く、
安堵の涙なのを、薫さんも私も気が付いていた。
彼に手を握られ、タクシーに乗り込む。
彼が告げた場所は解らなかった。ただ、高遠の家では無い。
でも、不安とかは不思議と湧かない。
握られた手が、私に安心感を与えてくれていた。
タクシーが止まったのは、高層マンションのエントランスだった。
そこは、まるで高級ホテルの様で、重厚感に溢れている、
手を繋がれたまま、足を踏み入れると直ぐに
コンシェルジュが「飯島様、お帰りなさいませ。」と
駆け寄り、薫さんに紙袋を手渡した。
「手間、とらせたね。」
「大丈夫です。」
短い会話がなされている。
エレベータに乗り込み、薫さんがカードを当てる。
自然とエレベーターが動き出した。
ポンと高級ホテルのような音で開いたドアの前にある表示は30F
少し、歩きドアの前に立ちカードを翳す。
このフロアには、扉が2つしか無い。
薫さんに促され、部屋に入る。
「お邪魔します・・」
「クスッ こんな時でも礼儀正しいね。」
想像以上に長い廊下の先にある扉を開けて入る薫さんに続く。
そこは、昨日まで泊まっていたホテルと遜色が無いくらいの
夜景が拡がっていた。
「綺麗!」
「君は綺麗な物を素直に褒める素敵な心の持ち主だね。」
私は貴方利用しようとした、醜い女。
「そんな こと ないです。 醜いです。」
その言葉に薫さんが私をジーっと見つめる。
その瞳に全てが見透かされそうで、俯いてしまう。
そんな私の頬に両手を添えて顔を持ち上げる。
「君は可愛いよ、僕のウサギさん」
その言葉と優しい瞳に涙が滲む。