私の好きな彼は私の親友が好きで

リビングに戻ると、薫さんもシャワーを浴びた出で立ちをしている。

不思議な顔をしたのだろう、
「バスルーム2つあるから」

薫さんは私を手招きし、ソファに座った自分の脚の間に、私を座らせる。
右手に持っているドライヤーで、何をしようとしているのか解り、
「自分で出来ます!」
「いいから 座って。」
その眼は自分の意志を曲げるつもりが無いのが見て取れたし、
正直、疲弊していた。
乾かしてもらいながら、私は又 何人の女性に、この行為をして
来たのだろうかと。
「自分の髪の毛以外に乾かしたことが無いから、もし、痛かったら
言ってね。」
私にだけ?
そんな眼を彼に向けたのだろう、彼は「僕のウサギさんは特別」
薫さんは私の欲しい言葉をくれる。

じゃあ、彼が欲しい言葉は誰から貰うのだろう?

「薫さん、とても上手ですね。気持ち良いです。」
「美容院で、女性のお客さんを乾かしているのを見ての、
うろ覚えの知識だからね。長くて綺麗な髪だね。染めているの?」
「一度、染めたんですが、半年くらいで違うな。って思って
黒に染め直したので、若干色が違うところが・・」
「君の綺麗な顔には黒髪が似合うね。」
「薫さんのお顔立ちも、黒髪がエキゾチックな雰囲気を、醸し出していて
とても、セクシーです。」
「美月ちゃんも俺も黒髪だから、子供も黒髪だね。」

(こどもーーーーー)

そうだ、この人と結婚したら子供はマストだ。
飯島コーポレーションの跡継ぎ・・それに、薫さんのお父様が元気に
なって貰うにはと、百合さんが言っていた。

「美月ちゃんにプレッシャーをかける為に、子供の話をしたんじゃ無いよ。
単純に、君の子供なら凄く可愛いだろうな、って思ったからだよ。
美月ちゃんは社会に出たいんでしょ?暫くは、俺も美月ちゃんと2人で居たい。」

あー本当に この人は優しい。
私はこの人に優しくしてもらう資格なんてないのに・・
私は、この優しさを利用しようとしていた。
浅ましい・・・だから、所詮 大事にされないセフレだったんだ。

涙がツツツッと頬を伝い始める。

ドライヤーを置いて、薫さんが私を後ろから抱きしめた。
「泣くのを我慢しなくて良いんだよ。泣きなさい。」
「狡い 狡い 私は狡い。 薫さんの優しさに甘えようとしている。」
「甘えて良いんだよ」
「そんなの ダメ。こんな私が薫さんの傍に「ダメだよ」」
「それ以上は口にしたらダメだよ」
「でも・・私が泣いている理由を知ったら」
「言いたいの?話したいの?」
首を横に振る。
「じゃあ、話さなくて良い。」
「でも、」
「美月ちゃんは今、俺の腕の中にいる。それだけで良い。
君が立ち直るのに、俺を利用して。俺を頼って。」
「そんなの酷いよ。狡いよ。」
「美月ちゃん、それで言ったら俺も狡い。
君が弱っている所に、付け込もうとしている。君よりもっと、もっと
大人なのに・・俺を頼って、俺無しじゃあ生きれなくなって。」

その言葉を発している薫さんも苦しそうだった。
苦しそうに、切なげに私を見る。
「ゴメンなさい。ゴメンなさい。」
そんな顔を、貴方にさせてゴメンなさい。
私は謝りながら泣き続けた。

「どうして、どうして私は月なの? どうして私は陽菜に、太陽になれないの?」
「僕は月を愛でていたい。」
「どうして、どうして、陽菜みたいに可愛く生まれたかった」
「君は美人だよ。昔から僕のお姫様だよ。」
「ひとりは怖い」
「大丈夫、僕が傍にいるから。」
「友達の幸せを、心から喜べない!汚いの。言葉では応援してるって!でも、
違う。そんなに私は良い人間じゃ無いから・・」

泣いて、醜い心を吐露する私を薫さんは抱きしめ、
「大丈夫だ。俺がいるから」と何度も何度も
繰り返し、耳元で囁き続けてくれた。
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