私の好きな彼は私の親友が好きで
出会い

薫が美月と出会ったのは、昨日が初めてではない。
もう、10年も前。
薫は高校生の時から考えていた事業を、大学入学と同時に
起業し、そこそこ成功していた。
それは、学業の傍らで立ち上げているにしては成功だが、
薫と、一緒に立ち上げた遠藤裕には、満足するレベルでは無かった。
こう、決定打が欲しかった。
大企業との契約。
自分達が作成し、売り込んでいたウィルス対策ソフトは自信作で、
小さな会社を周り、売り込み、成果を上げていたが、
大手企業からは、電話でアポを取る事すら、儘ならない状況だった。
自分達のバックグランドを使えば入り込むのは簡単だろうが、
薫も遠藤裕もそれを良しとはしていなかった。

何社にもあたり、今までに納入した企業の紹介で少しづは拡がっていたが、
本当に少しづつだった。
このままでは自分達の目標とする所までに到達するのに
何年、何十年かかるか解らなく、途方に暮れていた時に
高遠ホールディングスにコンタクトを取ると、とんとん拍子でアポが取れた。
その時に社長が同席したのには、俺も遠藤も心底驚き、緊張して
何度も何度もプレゼンしていたのに、満足いくプレゼンが出来なくて
下を向き、唇を噛んだ。

そんな俺に高遠社長は
「どんな状況になっても、顔は上げていなさい。
前を見据え、どんなに身体が逃げ出したいと思ってもそんな
素振りを見せず、それが虚勢であっても、堂々としていなさい。」
その言葉を投げてくれた社長の顔は仏に見えた。怖いのに・・

「1ヶ月。社長室、秘書室のパソコンに君たちのソフトを導入する。
社長室と秘書室のサーバーは他部署と別だから。
それで、結果がでたら、その先を考える。」
それだけ言い、退席した。

その、背中に俺と遠藤裕は膝に顔がつく勢いで頭を下げた。
この出会いが、俺達の会社が大きくなる分岐点だった。
そして、自分の人生の分岐点でもあった。
後から聞いた話だが、高遠社長は俺達に自分が起業した時の
自分を重ねたと言っていた。
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