私の好きな彼は私の親友が好きで

表面上は美月ちゃんを忘れた頃、高遠社長の誕生日パーティーに
招待された。
もしかしたら、そう、心が躍っていた、当時、未だ後輩とは付き合いは
続いていて居たが、そのパーティーに誘う事はしなかった。
就職活動真っ只中の後輩は、微かな伝手も欲しいからか、
この話を聞きつけた時は、珍しく食い下がっていたが、
もしかしたら、美月ちゃんが来るかもしれない場所に
女性同伴では出席したくなかった。
この頃からギクシャクし始め、諍いが増え、
「私を見て」の科白にウンザリしていた。
今思えば、彼女が何を訴えていたのかが解るが、
当時の自分には、面倒な科白だった。

そのパーティーで美月ちゃんを見つけた。
彼女は中学一年生。
少し前に見た時から、何か月間しか経っていないのに、
幼かった子は影を潜め、思春期特有の雰囲気を纏っていた。
未だ、幼い弟の世話を一生懸命にしている様は
彼女が何時か母親になった時を想像させるに十分で、
その子は、どうしても自分との子供であって欲しいと。

高遠社長が美月ちゃんを、公の席に出すのは、
自分の誕生日パーティーだけなのは、この先、
更に成長と共に美しくなる娘を警戒していると言うのを
自分の母が話しているのを偶然に耳にした。

断り切れない縁談話が舞い込まない様にガードしていた。
それを聴き、安堵した。

高校を卒業したら、話しかけよう。そう思っていたのに、
運命は簡単に引き寄せられなかった。
美月ちゃんが大学1年のパーティーで、話しかける予定が
その半年前に父が倒れた。
急遽、後継者として飯島コーポレーションの専務になるが、
風当たりはきつかった。
敵ばかりの所で結果を出さなくてならず、余裕も無く、
そのパーティーでも、実績を出すために、顔を売る事が優先だった。

少し余裕の出て来た翌年、美月ちゃんを見かけた俺は
声を掛けられなかった・・・
1年の間に、彼女が女になったのが、その顔を、容姿をみて悟ったから。
美月ちゃんから、女の匂いがプンプンしていた。
その放香にたじろぎ、絶望した。

自分の手で女にする事を、夢見ていたから。
自分の上で蝶の様に舞う姿を、夢見ていたのに。
アッサリ、違う男の上で舞っているかと思うと、無性に腹立たしかった。
その現実に絶望し、どうでも良くなった感情。
死ぬほど仕事をして、仕事優先で声を掛けられなかった昨年を
取り戻したかった。あの時声をかけていたら。
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