私の好きな彼は私の親友が好きで
踏み出そう

翌朝、頭痛と瞼の重みで目が覚める・・
カーテンの隙間からタップリと日差しが入っているのを
見ると寝坊してしまったようだ。
昨夜、一緒にベッドに入った筈の薫さんの姿は無かった。

少し戸惑いながら、多分リビングだろう方向へ、足を運ぶ。
昨夜は薫さんに、お姫様抱っこで運ばれたので、場所の特定が
曖昧だった。

何となくは解ってはいたが、リビングにも姿は無かった。

ふと、見るとテーブルにメモがある。

『出社しないとならないので、出掛けます。
起きたら、連絡下さい。』
簡潔なメッセージ。
でも、その横には頭痛薬が置かれていた。
思わずトクンと胸が鳴る。
本当に、この人は・・なんでも先回りして・・

ジワっと目頭が熱くなる。

スマホを取り、電話にしようかと思ったが、仕事中なので
メッセージを入れると、直ぐに既読が付き
着信を知らせる。

「美月ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「ゴメンね。寝ている君を置いて来てしまって。」
「こちらこそ 寝坊してしまいました。」
「一応、朝ご飯を頼んであって、テーブルに置いてある。
お昼ご飯は、コンシェルジュに頼むと良い。
今、無くて困る物があったら、それも頼んで良いからね。」
「そんな~ 自分で買いに行けます。」
「う~帰るまでに鍵を用意するから、それからだね。」
「あ、そうでした。鍵を掛けないでは出掛けられませんものね。」

薫がわざと鍵を置いて行かなかったことに、美月は気が付かない。

自分が居ない間に家に戻って欲しくなかったのだ。
いや、2度と離れて寝る事を考えて居ない薫だった。

「美穂さんにも連絡してね。充電が無くなったら、ベッドサイドに
置き型の充電器があるからね。」

昨日、自分の事で精一杯で連絡を忘れていた!
無断外泊だ!
「すぐに、母に連絡します!」
「じゃあ、今日は約束通り、デパートにベッド見に行くからね。
また、会社を出る時に連絡入れるね」

そうだった。ホテルで気に入ったマットとベッドを見に行く
約束をしていたのを忘れていた。
「はい。お仕事、頑張ってください」と伝えた。

スマホに残る母と、弟からの着信履歴とメッセージの量に
心配させてしまった・・のと、今の状況をどう、説明しようかと
思い悩むが、安心させるのが先決!母の番号をタップする。

ワンコールで、耳に母の声が届く。
「美月ちゃん、おはよう」その声はワンコールで出たとは、
思えない位にノンビリしたトーンだった。
「昨日はゴメンなさい。」
「あら~ 大丈夫よ。薫君から電話貰っているから。
今から、ママ、ショッピングに行くから美月ちゃんも一緒にどう?」
「ここの鍵が無いから(本当は腫れた眼を見せられない)又、今度ね。」
「あら~残念だわ。じゃあ、行ってくるわね。」と
最後まで軽快なトーンで何も聞かず、会話を終えてくれる母。

その優しさに涙が零れた。

弟にもコールする。
こちらも、ワンコール。
「姉ちゃん、無断外泊とはいい度胸してんな~。
心配したんだから今度、ハンバーガー奢って!」
とこっちも、あくまでも何時もの生意気な弟を演じている。
「うん! 奢るけど、安いところね。」
「ケチ!」そんな会話で終わる。

明るいリビングだから感じたのだろうか、昨夜のお風呂では一人ぼっちだと、
さめざめと泣いたが、1人じゃない。
景色の良い、リビングから冬晴れの青空を見ながら。
辛いけれど、スッキリした気分にも少し、ほんの少しだけ感じた。

歩き出そう。支えてくれている人が居る今、歩き出さないと
もう、歩けなくなってしまう。

大金を出し、何も聞かないで、イギリスに送り出してくれた両親に。
それを無駄にしてはいけない。
同じ事で2度も失敗してはいけない。
そう、自分を奮起させる。

ソファー前のコーヒーテーブルには、美容院さながらに女性ファッション誌が
これでもかと置いてあった。
薫さん・・・揃え過ぎです。と笑みが漏れる。

笑える・・そんな自分に少し涙が滲んだ。
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