私の好きな彼は私の親友が好きで
その週末、私は何時もの様に、薫さんとドライブデートするために
助手席で流れる景色を見ていた。
「今年は桜が早いですね。あちこちで桜が綺麗に咲いてます。」
「そうだね。桜は好きかい?」
「勿論、好きです。子供の頃、よく市ヶ谷のお堀でボートに乗って、
桜の花びらが落ちた、川面を眺めていました。」
「俺も、よく連れて行かされた。俺は花見より、その時期に、あの辺りの
大使館が解放されていてね・・色々食べたり、買い物したりするのが
楽しかった。」
「きっと、時期は違っても同じ所でお花見をしていたかと思うと、
嬉しくなります。」
私達は知らなかった時代の事を少しずつ話し、共有している。
まるで、その知らなかった時を穴埋めするように・・
都心から暫くドライブして連れてこられた洋館に、良く見知った車が
止まっていた。
(あれ?同じ車種?? いやいや、ナンバーが・・)
「薫さん、あの車 父の車です。」
「うん、隣の車は 親父の・・」
「はぃ~?」
「こっち来て・・」
手を握られ、洋館に誘われる。
大きな扉の先には、何人もの黒服姿のスタッフが並んでいる・・
「かおるさん?」
その中の女性スタッフ3人が私の手を取り
「奥様はこちらへ」
不安で薫さんを見ると、頷いている・・この人たちに着いて行くの?
不安しかない・・・
案内された部屋には、母と、お義母さんが楽し気に話していた。
「ママ!どうしてここに? お義母様、ご無沙汰しております。」
「美月ちゃん、お義母様は止めて~年寄みたい!百合ママって呼んで!」
「あ、はい!」
「で、どうしてここに?」
「「じゃ~ん!」」と2人が揃って口にし、左右に分かれた背中に
隠れていたのは
真っ白なウェディングドレス
「え????」
レースのフレンチスリーブにプリンセスライン、レースと真珠がふんだんに
仕様されている、贅沢なドレスだった・・
「綺麗・・」
「ママ達で選んじゃったんだけどね・・薫君が披露宴をするのは、
1年後じゃないと、招待客の予定もあるから・・
でも、式だけでも挙げたくてと相談にいらしたのよ。で、私達でね~?」
と、お茶目に笑う2人の母。
「そうそう、楽しかったわよね。私達も何着も試着しちゃったし」
(え・・・この2人・・)
「写真見る???」
「見ません!!」
あ~この2人が母って・・
私は幸せ者だ・・・
「さぁ、さぁ、ヘアーメイクして貰わないと・・」
私はそこから、何人ものスタッフさんの手により、スーパーモデルさながら
色々として貰い、段々とドレスが似合う状態に近づく。
そうか、卒業式だからネイルと、まつエクに行くように手配してくれたのは
これがあったから・・エステも予約してくれていた・・
ドレスを着て、鏡に映る姿は私では無いようだった・・
「綺麗・・・」
「本当に、綺麗・・」2人の母が涙目になり、釣られて泣きそうになるが、
「主役が泣いたら、折角綺麗にしてもらった意味がなくなるわよ」の一言で
グッと堪えた。
(薫さんに早く見て貰いたい!)
その願いが届いたのか、コンコンと扉を叩く音と共に薫さんが現れた。
シルバーのタキシードを着て・・端正な顔立ちで、身長の高い薫さんにピッタリだった。
「薫さん、凄く素敵です!」
「俺が褒めるより先に早いだろう!美月、綺麗だよ!」
私達は春の花が咲き乱れ、真っ青な空と、キラキラと波が揺れる、
海が臨めるチャペルで愛を誓った。