私の好きな彼は私の親友が好きで
「お待たせ」その声に一瞬、顔を上げる。その女性は私の後ろの席に
向かって行く、何気ない日常の一コマ
「やだ、又そんなの見てる。」
「ついつい目について買っちゃった。ダメだよね」
そう答えた声に聞き覚えがあった。
さっき、私が訪ねた八木沼さんだ。
「若きリーダー特集ね~ 出ているんだ飯島薫さん。」
(飯島薫)今、そう聞こえた。
トクンと胸が高鳴ったのと同時に不安が支配する。
「さっき、書類を持って来た子が 飯島さんって名乗ってね。
それで、コンビニでこの特集が目について買っちゃったの。」
「読んだの?」
「うん。大体」
「プライベートは口にしている?」
「うんうん。仕事の事だけ。」
「写真には?」
「丁度、手は映っていない」
「彼ほどの人が結婚したら流石にニュースになるでしょ?
未だ結婚してないんじゃないの?」
トクンと跳ね上がる心臓。
イヤ、止めて、それ以上はここで口にしないで。
「喧嘩して別れた訳じゃないんでしょ?」
「うん、彼がお父さんの会社に入る事になって・・」
「じゃあ、もしかしたら落ち着いた今なら、やり直し出来るかもよ。
連絡してみたら?」
止めて、そんな事を勧めないで。
「でもね、多分私じゃダメ」
「どうして?」
「彼は他に大事な人が居た。」
「え?」
(え!!!)
「私を見ていなかった。一度聴いたの。浮気していると思って。
そうしたら、彼は否定しなかった。そして言われた
付き合ってはいないけれど、彼女が1番だから、浮気はしていないけれど
心まで支配しようとしないでって」
「なにそれ・・そんな事今まで一度も・・」
「言えないよ・・私一人がバカみたいに盛り上がって・・
何時か、もしかしたら 飯島 万理になれると思っていたし、あっちゃんだって
玉の輿だねって・・私の周りだけが盛り上がっていて、薫さんは全然違った。
彼の友達すら紹介された事なかったもん。」
(薫さん って呼ばないで! 私が呼んでいるように呼ばないで。)
その会話に恐る恐る、さっき交換した名刺の名前を確認する。
『八木沼 万理』 さっきの人に間違いない。
彼女の姿を思い出す。私と違い、堂々として登場した出で立ち。
私と何もかも違っていた。
それよりも何よりも彼女が言っていた
「1番大事な彼女が居る」それが私の心を砕いた。
折角頼んだドリアも、食べる気にならず、店を後にした。
さっきまで、輝いていた世界が色を失っていた。
あー 又私は1番になれなかった。
信じていたのに・・・