私の好きな彼は私の親友が好きで
そこから私はどうやって帰社したのか、午後の仕事をこなしたのか、
どうやって自宅に戻ったかも覚えていなかった。
シャワーを浴びて、薫さんにメッセージを打った
(体調が悪いので、食事の用意が出来ません。
先に、寝ます。)
返信を待たないで電源を落とし、ベッドの端に身体を沈めた。
辛すぎて、悲しすぎて、涙も出ない・・・
「美月・・」暗闇の中、その声を遠くで聞こえた気がする・・
「大丈夫?」
返事しないと・・何か答えないと・・でも、喉が締め付けられて声が
出ない・・
それを寝ていると、とったのだろうか、
「ゆっくりお休み」そう言って、私の頭にキスをして、寝室から出た。
私の心は荒み、そのキスさえ、その言葉さえ私に向けられている言葉では
無い・・その優しさも、愛情も、言葉も全部嘘だったんだ・・
信じて、縋ってしまった分だけ、余計に私は奈落の底に突き落とされていた。
心がガラガラと音を立てて壊れていくのが解った。
本当に辛いと、涙も出ない事も知った。ただ、胸の奥が抉られるような
痛みだけを認識する。
私はベッドの隅っこで丸まって胸の痛みに耐えた・・
うつらうつら、していたのがベッドの軋みで、現実に戻り、
薫さんが横たわったのを気取る。
薫さんは何時ものように私をバックハグしたが、私はピクンと拒絶に近い
反応をしてしまい、一瞬、寝室の空気が変わったような気がした。
薫さんは、そのまま軽くハグしたまま眠りに落ちた。
逆に私はそのまま、寝れなくなってしまった。
朝が白み始めた頃、その慣れた温もりから、静かに抜け出す。
そこで、寝ている愛しい人は昨日と何も変わらない顔で寝ている。
私だけが昨日と違う。
起きたからと言って、何をする気にもならないけれど、
シャワーを浴びて、腫れ上がった目を隠すメークをし、
簡単に朝ご飯の用意をして、6:30に家を出た。
薫さんと会いたくなかった。一緒の空気を吸いたくなかった。
優しく手を握られたくなかった。
だって、それは全部偽物だから。
(体調が悪く、仕事を残してきたので、早めに出社します)とメモ書きを残し。
初めて一人で会社に向かった。
早く出ても、行く所なんて何処にも無い。
会社近くの公園のベンチに座り、一人穏やかに晴れた空を
見上げる。
自分以外の誰もが、穏やかに過ごしているようだ。
後、少し、私の心に開いた傷口に一撃を受けたら
壊れそうだった。
でも、その壊れそうな心を誰も、塞いでくれそうにない。