私の好きな彼は私の親友が好きで

「飯島?」呼ばれた声にハッとして、声の方向を見ると
同期の岩原君だった。
「あ、岩原君おはよう」
「おはよう。 こんな所で何しているの?」
「うん。ちょっと お花が綺麗だな~って思って」
「そろそろ、行かないと遅れるぞ!」
「そんな時間? ヤバイ!」
並んで歩き出す岩原は、10分以上も前から、美月の姿を捉えていた。
同期の綺麗な子っていう印象、ハシャグタイプでは無いが、
その綺麗さで、男子の中では断トツ人気だった。
それは高嶺の花で、近寄りがたくもあった。
そんな彼女を朝のサラリーマンが通り過ぎる中、ベンチに座る姿は
儚げで、居なくなってしまいそうだった。
自分が見ているのにも、周りの男性がその美しさに振り返るのも
気が付かないで、1点を見ている眼は、何時もの意志の強そうな眼では
無かった。
時間も気にせず、そこに居る彼女に声を掛けたのは、お節介と、興味本位。
何かがあったのは解った。
だって、彼女が居た辺りは新緑で眩しいが、1つの花も咲いていなかった。

「未だ、朝なのに暑いよな。」
「そうだね。溶けそうだよね」
そう口にする、美月は汗1つ掻いていない・・
「この公園、飯島が通るの見るの初めて。」
「うん。普段通らないよ。」
「そう言えば、余り駅で一緒になる事ないよね。」
「うぅん そうだね。電車だったり、バスだったりと
気分に寄って使い分けているから・・」
「両方、使えるんだ。便利な所に住んでるんだな」
「うん」
そして、又、遠い目をする。もう、岩原は自分が一緒にいるのに
存在を忘れられている事に気が付き、何故か、胸が痛んだ。

会社に着いてスマホを取り出し、昨夜から電源を落としている事に
気が付く・・沢山のメッセージに着信。
全部、薫さんからだった。
今朝だけで着信が20件。
メッセージも・・・「美月、体調は?」「美月、既読にならない」
「美月、会社に着いた?」「美月、電話出て。」「美月、なんかあった?」
「美月、俺 なんかした?」等々・・
「会社着いています。スミマセン 電源が昨夜からOFFになってました。」
と、返信して又、バックにしまった。

同期の村林久美ちゃんにお昼を誘われたが、食欲も無いので断り、
会社近くのカフェに向かう・・バックから取り出したスマホには
又、薫さんからメッセージが入っている。
「お昼、一緒に食べないか?」と・・
「同期と、社食に来てしまいました」直ぐに既読が付き
「残念」
本当に残念だと思っているのかな?
この時間に誘われた事無いから、断られるの知っていてのメッセージなのかな?
一応、妻を気にかけているアピールなのかも・・暫くすると
「今日、接待だから夕飯はいらないです。」とメッセージが入った。
前の私だったら寂しかったのけれど、今日の私は薫さんと会わないで済むことに
安堵していた。

多分、日付が変わった頃に薫さんがベッドに入ってきた、
少し、アルコールの匂いがする。昨日と同じように隅っこに寝ていた
私を、静かに抱きしめて、あっという間に寝息を立てていた。
(疲れているよね・・)そう思って、お腹に回された手に自分の手を重ねる。
「こんなに好きなのに・・」そう小さく口にした。
でも、涙はやはり出なかった。
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