私の好きな彼は私の親友が好きで

翌朝も、6時30分に家を出る。
「今日も、仕事があるので早く出ます。」そのメモだけを残し・・

昨日と同じ公園で、今朝も過ごす。
居るだけ、何も考えられない・・だって、どうして良いか解らない。
離婚?どうやって・・理由は?「薫さんは私を1番好きじゃないから」
そんなので離婚なんて許されない。浮気された訳じゃない、
その人がどんな人で、今、何をしている人なのかも知りえないのに・・
八木沼さんの顔は浮かぶけれど、薫さんの一番好きな人の顔は浮かばない。
私は誰に嫉妬すれば良いの?

「飯島。」今日も同期の岩原君の声にハッとする。

きっと、なんで毎朝、ここに居るんだろう?って思っているのが
アリアリと感じる。
その声が合図のように会社に向かう・・バックの中でバイブにしている
スマホが振動しはじめる・・それに気が付いているのに、気が付かないフリを
する。多分、岩原君も気が付いている・・チラッとバックを見たから・・

何しているんだろう私。

結婚て何なんだろう・・気まずくなると帰る場所が無くなるのが
結婚なのかな?
私が高遠の娘だった時は、恋に破れても戻る家があった。
でも、結婚して一緒に暮らして、旦那様の愛が無くなったら
何処へ私は戻るの?
未だって居場所が無くて、朝早く公園に居る。
世の中の夫婦はどうやって、こんな時 過ごしているのだろう?
答えが出ないまま、今日も何時もと変わらない日常が過ぎていく。

定時過ぎにスマホを見ると、薫さんから
「起きたら居なくて寂しかった」とメッセージが・・
たったそれだけ・・昨日まではたくさん来ていたのに・・
まともに返信していない癖に、見放された気分になり、
暑いのに、寒くて自分で自分を抱きしめる。

20時過ぎにメッセージを受信する。
「仕事でトラブって帰れない。」
簡潔なメッセージに安堵と寂しさを覚えるのは、ただの我儘だ。
多分、そのトラブルの中でメッセージをくれたのは彼の思いやりだって
解っているのに、今の私は素直になれない。

薫さんは、今までと何も変わらず優しい。

ただ、その優しさが私の求めている優しさと違うだけ。
この、優しさだけで我慢すれば、薫さんの傍に居られる。
美月、それでも良いんじゃない?そう考える私の心と、
もし、薫さんの一番好きな人が薫さんの元に来たら?
そうしたら私は傍に居る権利はあるの?
薫さんの一番大事な人が1年後に現れたら?
もし、私達に子供が出来てから、その人が現れたら
子供も私も捨てられる?
それとも、我が子を可愛いと思って私達を選んでくれる?

不確かな未来が怖い。

ベッドが軋んで、彼に抱きしめられたのは、もう、夜が明け始めた頃。
彼の腕から抜け出す時に見た寝顔は、焦燥している
その、疲れ切った顔が切なくて、気が付いたら彼の眼の下の隈に
キスをしていた。自分の行動に驚き、慌てて抜け出す。

薫さんが好き・・・私が解るのそれだけ。

「ほい!」目の前に水滴の付いたペットボトル。固まっている私に
「飲めよ。」 受け取ると岩原君は私の隣に腰掛けた。
「いくら朝だからって、水分補給しないと熱中症になるぞ。」
「ありがとう」そう言って口をつけると、身体の中に染み渡る・・
水分と、思いやりが・・
「あ、お金・・」
「いらないよ」
「でも、」
「じゃあ、今度 ス〇〇で奢って。」
「え~それじゃあ高くつくじゃん!」と言って笑うと
「飯島は笑っていた方が良い」ボソッと言われた。
久々に笑った・・・口角がこんなに重たくなっていたなんて・・

定時に会社を出ると待ち構えていたようにスマホが振動する。
薫さん!そう、思い 取り出したスマホのディスプレイに落胆しタップする
「もしもし、奥様、申し訳ございません。専務は今日も夕食のお時間に
戻れないので、先に済ませて下さいとの事です。」
今まで、こんな事は無かった。
「あの、薫さん、大丈夫ですか?」、向こうの声が一瞬緩んだ感じがしたが
返ってきた言葉は「大丈夫です。専務ですから」とハッキリした口振りに
安心する。
電話を切り,ハタと気が付く・・今まで秘書から連絡を貰った事は無かった。
それは、この数日の私の態度に薫さんが呆れてしまい、私への連絡を秘書に
一任する事にしたのでは?
そう、思うと背中に嫌な汗が流れる・・・自分で避けているの、避けられて
傷つくなんて・・話さないと・・・ちゃんと薫さんと話そう。
それで、もし自分が1番になれないなら・・子供は諦めよう。
そして、薫さんにその人が現れるまで傍に居て・・・その人が薫さんを
愛していたら・・ヤダ・・そんな人 現れないで欲しい・・
ズーっと傍に居たい。
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