私の好きな彼は私の親友が好きで
薫の想い
定時で上がり、会社を出たタイミングでスマホが鳴る。
昨日と同じように薫さんの秘書からの電話かと思ったら
ディスプレーの表示は薫さんだった。
「もしもし、美月 仕事終わった?」
「はい。今 会社でました。」
「良かった。俺も帰れるから 会社に来て。」
「解りました。駐車場で待ってます。」
「いや、階上に上がって来て」
「え??でも、未だ社員さんが沢山いらっしゃる時間ですよね。」
「別に奥さんが会社に顔出すのは普通でしょう?」
「良いのかな?」
「秘書と運転手意外に美月を知らないから、ホモ疑惑がたっているんだよ。」
「薫さんがホモって・・・」クスクス笑うと
「ね、旦那さんのピンチを救いに来て」
私は初めて正面から飯島コーポレーションに足を踏み入れた。
そうは言っても飯島コーポレーションも就業時間は終了していたので
受付には誰もおらず、私もIDカードがあるので、そのまま
ゲートを通り、入館した。
エレベーターで数名の社員と一緒に乗るが、私が役員フロアーボタンを
押したのを、怪訝そうな顔をし、背中に刺さる視線は居心地が悪かった。
エレベーターが開き、そこに秘書の佐伯さんを見た時には安堵し、ホッと息を吐いた
このフロアーに入るのは、はじめてだから・・
「美月様、お疲れ様でした。」
「お疲れ様です。昨日は、お電話有難うございます。」
「いえいえ、専務がご連絡する時間も取れなくて、出しゃばりました。」
「お忙しいのに、お手数おかけして・・しかも今も仕事中なのに・・」
「逆に美月様が来ていただいて、こちらとしては有難いです。」
「???」
「今週は、何時もよりお忙しくて美月様とのお時間が取れなかったので
専務の機嫌が頗る悪く、今度から、このような時には
美月様の会社も、お近いので、お昼ご飯を用意いたしますので、
専務室にいらして下さい。」
「流石にそれは・・・」
「いや、是非、社員の為にもお願いします。」
私なんかが居てもどうかな?とは思うけれど・・
「時間が合えば・・」そう答えるしかなかった。
佐伯さんの後に続き、重厚な扉を開けると、机が2つあり、奥にある扉が少し
開いている先から、薫さんの声が聴こえる。
佐伯さんは軽くノックし「失礼します」と、その扉を開ける、
電話をしていた薫さんは顔を上げて、ニッコリ微笑みながら私に手招きする。
薫さんの手だけの指示で、ソファーに座り、電話が終わるのを待つことに・・
手持無沙汰と、少しの緊張で、自分の手を擦り合わせると、右手に嵌った指輪に
手が触れた、それを、左手に移す。
顔を上げた時に薫さんと目があう・・その表情は凄く驚いていたのに
直ぐに、蕩けそうな笑顔を向けられ、胸に本当に矢が刺さった。
恋の矢って本当にあるんだ・・・刺さらないで欲しかったな~
父の社長室には何回か子供の頃に入った事があるが、薫さんの仕事場を見るのは
初めてで少しドキドキし、キョロキョロしてしまう。
デスクにはパソコンが2台。ジャケットを脱ぎ、少しネクタイを緩めて
電話しながらパソコン画面を見ている姿にキュンとする。
私の中のスキが、又増えたのが解り、切なくなる。
私ばかりが好きで狡い。
私ばかりが切なくて、苦しくて、どんどん好きになって・・
心が張り裂けそうになっているのに、一緒に暮らしているのに、
奥さんなのに・・1番になれないなんて・・残酷だ。
「もう少しで終わるからね」と受話器を置きながら優しく私に微笑む。
その笑顔は本物ですか?
私は何を欲しいのだろう。言葉?身体?時間?・・違う・・心が欲しいの。
見える物じゃないけれど、感じる物・・証明が難しいのを1番手に入れたい。
そして、それはきっと、望んでいはいけない物・・