私の好きな彼は私の親友が好きで
「美味しくない?」
「え?」
「全然、減っていない・・」長い沈黙の後に「 美月、痩せたよね・・」
体重計には乗っていないけれど、月曜日の朝から満足に食べていないから、
痩せえたと言うよりは、やつれたの方が正しい。
その言葉に答えず、唇を白くなるまで噛み締める・・
箸を置きながら「今朝、話し合おうって言ったのは覚えている?」
俯いて、首を縦に振る。
「俺、なんかした?」
首を横に思いっきり振る。
「俺が、会社があるのに見境なく美月を抱くから嫌になった?」
え??何?それ? 何言ってるの?
真っ赤になりながら「イヤだと思った事なんて一度も無いです。」
「じゃあ、毎日抱いても良いの?」
「はぃ・・・」
「じゃあ、どうして月曜日からよそよそしいの?お昼までは
変わらなかったよね。頼んだドリアの写真も送られてこなかった・・」
「あの日、昭和物産に行ったんです」
「うん。初めての他社との交流だね。」
「ただ、書類を持参しただけで・・お昼ご飯に入った喫茶店の後ろの人が・・
八木沼万理さんでした・・」
彼は一瞬、怪訝な顔をした・・
「薫さんが元カレだと・・」
「あ~・・」
「私、その人に書類届けて・・で、その人がお友達と話している内容が
薫さんと付き合っていて・・嫌いで別れた訳じゃないから・・連絡して
より戻せばと・・」
何時の間にか私の隣の椅子に腰かけ、私の手を握る
「彼女と付き合っていたのは確かだよ。未だ美月が高校生の頃にね。」
やっぱり、元カノだったんだ・・万が一、それが嘘だったら、薫さんの1番の
話しも嘘だと確信出来るのに・・
落胆する私に「彼女と付き合っていたけれど、好きだったことは無い」
「・・・」それは飯島さんが言っていたのと符合する。
「俺は大学4年生の時から心惹かれている子が居たからね・・」
私の箸が手から零れ、音を立てて床を転がる・・その音がまるで私の心が
壊れていく音の様に広い部屋に響く・・
あ・・・もう、傍にも居られないのね。
絶望が支配する。
「彼女に会うまで好きとか愛しているとか、そんなの無意味だと思っていた
どうせ俺の容姿や、名前に惹かれているだけ、そんな女しか
寄って来なかったし、その方が面倒じゃなくて良かった。」
「・・・」
涙腺が崩壊するまであと、どのくらい だろうか?
この話が終わるまで、私のメンタルは持つのだろうか・・
「彼女は俺に好きの感情、嫉妬、独占欲の全てを与える・・」
「ぅうくぅう・・」どんなに堪えても喉の奥から漏れる音を止められない。
10年以上も薫さんはその人を想い続けている・・そんな人に叶うわけが無い
「『パパ、浦島太郎の逆で凄く若返ったのね。素敵!』その子は俺を見た時
そう言ったんだ。その笑顔が今も脳裏に焼き付いている。
で、俺にはその子のパパみたいに会話を続けた。」
(浦島太郎の逆???なんか 懐かしいフレーズ。)
「今でも全部覚えている『今日は学校はどうだった?』
『うん。楽しかったわ。 家庭科で料理をしたの。』
『何を作ったの?』
『お魚のムニエル、ポテトサラダ、お味噌汁、』
『上手に出来たかな?』
『うん。とても上手に出来た!』
『じゃあ、今度 作ってくれるかい?』
『うん。絶対作るね。その代わり 美味しい以外は口に
したらダメよ。』
『解りました。お姫様👸 約束だよ』
そう、彼女と会話したんだ。」
薫さんはそう言いながら優しく、戸惑うような笑みを浮かべ、
私の人差し指を食む。