『異世界で本命キャラと恋に落ちたい。』
私たちは道中穢れを祓いつつ、徐々に北上していった。回数を重ねるごとに倦怠感も減ってきて、自分で回復魔法もかけるので、浄化後に動けなくなることはほぼなくなっていた。今のところ同行者の二人にも大きな迷惑をかけずにすんでいて安心だ。
でも、この数日間は毎日連続で穢れを祓ったのでさすがに疲れが溜まってきた。
「──ふう。」
「お疲れ様ですユウキさん。……体調はいかがですか?」
「おい、顔色があまり良くないぞ」
小さな草むらに留まっていた穢れを祓ったあと、バルトルトが気遣うように尋ねた。テオドールまで聞いてくるなんて、本当に体調が良くなさそうに見えるのかな。
体はだるいけど歩けないほどではないし、大きな移動は馬車だ。馬車まで戻れば休めるので問題ない。それに、今は気になることがあった。
「少し疲れたけど、大丈夫。それより、ちょっと西の方になんというか……物々しい気配を感じるんだ。そこまで急いだ方が良いかもしれない」
遠くから感じる暗く重い淀みの気配。この数日で祓ったものの大元の穢れなのかもしれない。何か大事になったら大変だから、早めに様子だけでも見て確認しておきたい。
二人は私の意見を尊重してくれて、すぐに西へ急いだ。
しばらく西へ向かうと、山肌に沿うように人家がぽつぽつと見えてきた。小さな集落だろうか。緩やかな坂になっているその村は、遠目から見ても黒い霧にもやもやと覆われていることがわかる。
「あの広場みたいになってるところ、大きな穢れの塊がある!」
「……どうやら、魔物と戦っているみたいですね」
「行くぞ」
段々と広場の様子がはっきり見えてきた。おそらく村の人だろう、農具などを手に黒の塊に対峙している。怪我をして倒れている人も数人いるようだ。村の中心までたどりつき、私たちは馬車から飛び下りた。
黒い球状の塊、と称するのが一番形容としては合っていそうなそれは、黒い霧を撒き散らし、影のような中心からはか細い尖った腕のようなものが二本のびている。見るからに異形なそれは、穢れが溜まって魔物になったものだ。魔物はゆらゆらと形を変えながらこちらに近づいてきた。
「加勢する! 傷を負ったやつは後ろに下がれ!」
突然現れた私たちに村の人たちは驚いた様子だけど、武器を手にしたテオドールの指示にすぐさま従った。
「ユウキさんは、怪我をした方に治癒を」
「わかった!」
魔物から距離を離したところに怪我人を運んでもらう。皆大きな外傷は無さそうだけど、恐らく攻撃を受けた箇所に穢れが移っているようだ。これは、穢れを祓ってから治癒魔法が良さそうかも。
まとわりつく黒いもやを、光に全部吸い込んでいく。浄化が終わったら、次は治癒だ。苦しそうな顔が徐々に和らいでいく様子にほっとする。
「これで、大丈夫なはずです」
「穢れを祓えるなんて……もしかして、『神の御使い』様か?」
「はい」
村の人の言葉に頷き、浄化のアクセサリーであるネックレスを示す。
テオドールとバルトルトたちの様子を見ると、二人の攻撃が効いているのか魔物から出る黒いもやの力が先程よりも薄らいで感じる。これなら浄化してしまえるかも。
「テオドール、バルトルト!」
「いけるか?」
「うん!」
二人が私の前に立ち魔物からの攻撃を防いでくれているので、集中して穢れを祓うイメージをする。黒い霧を生み出してるあの中心部分、これ以上穢れが出てこないように光で蓋をしてしまえ。そのまま全部を吸い取るように、光は小さく分かれて浄化のアクセサリーへ消えていった。
急に目の前がチカチカとして、気がついたら視界の端に空が映る。倒れているんだなと、頭のどこかで冷静な自分が分析する。今日は立て続けに浄化の力を使ったから、さすがに限界がきたかな……
ふいにテオドールが振り返り、がしっと私を支えてくれる。……ああ、どうしていつもそんなにタイミング良く助けてくれるんだろう。抱き上げられて運ばれるゆらゆらとした感覚に、暖かな体温に、そのまま眠りに落ちた。
目を覚ますと、知らない部屋でベッドに寝かされていた。以前と同じように、先ほどの村の親切な誰かが貸してくれたんだろう。あのときは瑠果ちゃんが隣にいたんだよなと、思い出してさみしさを感じた。
自分に気力回復の魔法をかけつつ、さっきの戦闘のことを考えていた。戦いの面ではなにもできなかったけど、やりとりは何だかこう、仲間っぽくなかった?! テオドールの『いけるか?』に『うん!』って返したところとか、ちょっといい感じに連携ぽくできたのでは! 二人が前に立っているところとか、ゲーム画面の再現みたいで改めて考えるととてもテンションが上がった。
思い返してはニヤけて、あれ、でも、そういえばそのあとは………抱き上げられて………もしかしていわゆる姫抱きで運ばれたのでは?!?!?!
ぽん、と体からあふれ出た魔力が体から飛び出す。一気に脳が処理落ちした感じだ。魔力の光はふわふわとドアの方へ向かって行った。
あああ……最近では制御が出来るようになってきていたのに、久々に飛んでいってしまった。タイミングの悪いことに、直後にドアがノックされバルトルトとテオドールが入ってきた。
「目が覚めたんですね、良かったです」
「あの、二人とも……色々ありがとう。怪我はなかった?」
「俺たちは問題ない」
自然に会話もできているし、このまま魔力を飛ばしたことも抱き上げて運んでもらったことも忘れておこう、うん。今までも倒れたりしたときは誰かに運ばれていたんだろうけど、もうノータッチだ。
「そういえば、この村の近くに温泉があるらしい」
「温泉?!」
旅暮らしをしているとなかなか大きなお風呂には入れないものだ。思わずぱあっと顔が明るくなる。日本人だからということもあって、温泉はやっぱりすごく好きだ。これは是非入りたい!
「今日はこのままこの村に泊めてもらうことにして、ゆっくり休みませんか」
やったー、温泉!! バルトルトの提案に、もちろん二つ返事で答えた。
でも、この数日間は毎日連続で穢れを祓ったのでさすがに疲れが溜まってきた。
「──ふう。」
「お疲れ様ですユウキさん。……体調はいかがですか?」
「おい、顔色があまり良くないぞ」
小さな草むらに留まっていた穢れを祓ったあと、バルトルトが気遣うように尋ねた。テオドールまで聞いてくるなんて、本当に体調が良くなさそうに見えるのかな。
体はだるいけど歩けないほどではないし、大きな移動は馬車だ。馬車まで戻れば休めるので問題ない。それに、今は気になることがあった。
「少し疲れたけど、大丈夫。それより、ちょっと西の方になんというか……物々しい気配を感じるんだ。そこまで急いだ方が良いかもしれない」
遠くから感じる暗く重い淀みの気配。この数日で祓ったものの大元の穢れなのかもしれない。何か大事になったら大変だから、早めに様子だけでも見て確認しておきたい。
二人は私の意見を尊重してくれて、すぐに西へ急いだ。
しばらく西へ向かうと、山肌に沿うように人家がぽつぽつと見えてきた。小さな集落だろうか。緩やかな坂になっているその村は、遠目から見ても黒い霧にもやもやと覆われていることがわかる。
「あの広場みたいになってるところ、大きな穢れの塊がある!」
「……どうやら、魔物と戦っているみたいですね」
「行くぞ」
段々と広場の様子がはっきり見えてきた。おそらく村の人だろう、農具などを手に黒の塊に対峙している。怪我をして倒れている人も数人いるようだ。村の中心までたどりつき、私たちは馬車から飛び下りた。
黒い球状の塊、と称するのが一番形容としては合っていそうなそれは、黒い霧を撒き散らし、影のような中心からはか細い尖った腕のようなものが二本のびている。見るからに異形なそれは、穢れが溜まって魔物になったものだ。魔物はゆらゆらと形を変えながらこちらに近づいてきた。
「加勢する! 傷を負ったやつは後ろに下がれ!」
突然現れた私たちに村の人たちは驚いた様子だけど、武器を手にしたテオドールの指示にすぐさま従った。
「ユウキさんは、怪我をした方に治癒を」
「わかった!」
魔物から距離を離したところに怪我人を運んでもらう。皆大きな外傷は無さそうだけど、恐らく攻撃を受けた箇所に穢れが移っているようだ。これは、穢れを祓ってから治癒魔法が良さそうかも。
まとわりつく黒いもやを、光に全部吸い込んでいく。浄化が終わったら、次は治癒だ。苦しそうな顔が徐々に和らいでいく様子にほっとする。
「これで、大丈夫なはずです」
「穢れを祓えるなんて……もしかして、『神の御使い』様か?」
「はい」
村の人の言葉に頷き、浄化のアクセサリーであるネックレスを示す。
テオドールとバルトルトたちの様子を見ると、二人の攻撃が効いているのか魔物から出る黒いもやの力が先程よりも薄らいで感じる。これなら浄化してしまえるかも。
「テオドール、バルトルト!」
「いけるか?」
「うん!」
二人が私の前に立ち魔物からの攻撃を防いでくれているので、集中して穢れを祓うイメージをする。黒い霧を生み出してるあの中心部分、これ以上穢れが出てこないように光で蓋をしてしまえ。そのまま全部を吸い取るように、光は小さく分かれて浄化のアクセサリーへ消えていった。
急に目の前がチカチカとして、気がついたら視界の端に空が映る。倒れているんだなと、頭のどこかで冷静な自分が分析する。今日は立て続けに浄化の力を使ったから、さすがに限界がきたかな……
ふいにテオドールが振り返り、がしっと私を支えてくれる。……ああ、どうしていつもそんなにタイミング良く助けてくれるんだろう。抱き上げられて運ばれるゆらゆらとした感覚に、暖かな体温に、そのまま眠りに落ちた。
目を覚ますと、知らない部屋でベッドに寝かされていた。以前と同じように、先ほどの村の親切な誰かが貸してくれたんだろう。あのときは瑠果ちゃんが隣にいたんだよなと、思い出してさみしさを感じた。
自分に気力回復の魔法をかけつつ、さっきの戦闘のことを考えていた。戦いの面ではなにもできなかったけど、やりとりは何だかこう、仲間っぽくなかった?! テオドールの『いけるか?』に『うん!』って返したところとか、ちょっといい感じに連携ぽくできたのでは! 二人が前に立っているところとか、ゲーム画面の再現みたいで改めて考えるととてもテンションが上がった。
思い返してはニヤけて、あれ、でも、そういえばそのあとは………抱き上げられて………もしかしていわゆる姫抱きで運ばれたのでは?!?!?!
ぽん、と体からあふれ出た魔力が体から飛び出す。一気に脳が処理落ちした感じだ。魔力の光はふわふわとドアの方へ向かって行った。
あああ……最近では制御が出来るようになってきていたのに、久々に飛んでいってしまった。タイミングの悪いことに、直後にドアがノックされバルトルトとテオドールが入ってきた。
「目が覚めたんですね、良かったです」
「あの、二人とも……色々ありがとう。怪我はなかった?」
「俺たちは問題ない」
自然に会話もできているし、このまま魔力を飛ばしたことも抱き上げて運んでもらったことも忘れておこう、うん。今までも倒れたりしたときは誰かに運ばれていたんだろうけど、もうノータッチだ。
「そういえば、この村の近くに温泉があるらしい」
「温泉?!」
旅暮らしをしているとなかなか大きなお風呂には入れないものだ。思わずぱあっと顔が明るくなる。日本人だからということもあって、温泉はやっぱりすごく好きだ。これは是非入りたい!
「今日はこのままこの村に泊めてもらうことにして、ゆっくり休みませんか」
やったー、温泉!! バルトルトの提案に、もちろん二つ返事で答えた。