『異世界で本命キャラと恋に落ちたい。』
アルフレートの住んでいた村……正確にいうと住んでいた場所に一番近い村になるわけだけど、小さくてとてものどかな場所だった。旅人はめったに来ないらしく、私たちの姿を物珍しそうに見ている。皆は既に村に着いているはずなので、落ち合う予定の最奥の小屋に向かった。木の扉を開けると、三人と一匹が私たちを待っていた。
「悠希さん!」
「瑠果ちゃん!」
笑顔の瑠果ちゃんが私をぎゅっと抱き締め手を取ってぶんぶんと振る。瑠果ちゃんの嬉しい気持ちがじんわり流れ込んでくる感じがするのが懐かしい。
「二人も元気そうだな!」
「レオンハルト、アルフレートも久しぶりですね」
定時連絡の時姿は見ていたけど、やっぱり実際に会うのとは違う。皆それぞれに言葉を交わして、しばらく無事の再会を喜んだ。
今後のことを相談したりしながら、改めて出発の準備を進める。これからはまた一緒のため、余分なものを手放したりで時間がかかる。今日はこのままこの小屋に泊まりだ。久しぶりのわいわいとした雰囲気のなか、アルフレートが私と瑠果ちゃんに声をかけた。
「ユウキ。それに、ルカも。ついてきて。」
二人で顔を見合わせる。小屋の中で準備をする皆を振り返ると、レオンハルトが行ってこいと手を振った。予め伝えてあるようだ。
家の外に出て手招きするアルフレートについていく。他の皆をあまり連れていきたくはないところ。そうなると、もしかして……
「ねぇアル、どこにいくの?」
「師匠のところ。」
アルフレートの言葉に、思わずその肩でもふもふとした尻尾を揺らすクリスを見てしまった。瑠果ちゃんにそっと視線を送ると首を横に振る。瑠果ちゃんもまだお師匠さんのことを知らないことになっているみたいだ。
「アルフレートのお師匠さんのところ?」
「ユウキ、魔法が使えなくなったんでしょ? 見てもらおうと思って。」
振り返らずに歩いていくアルフレートの代わりに、クリスがこちらを向いてチチッと鳴いた。ちゃんとついてこいよ、と言っているような気がする。
村から出て北の森へ入ると複雑な細い道を通って進んだ。そう遠くない距離のはずだけど、どこをどう曲がったかすぐにわからなくなってしまった。道を知らないと迷いそうだ。木々が鬱蒼として太陽の光があまり通らない、陰った場所にその小屋はひっそりとあった。扉に触れて魔力を通すとアルフレートは手招きをする。小屋の中へ足を踏み入れた途端、とても形容しがたい感覚を覚えた。もしかしたら何か結界の類いでも張られているのかもしれない。
「こっち。」
長い間帰っていなかったと思われるのに小屋の中はとても綺麗で、それに光で満ちている。アルフレートは一番奥の扉へ──部屋かと思ったら石造りの階段で、そのままコツコツと下へ降りていく。
たどり着いた地下室は少し寒くて薄暗い。特に家具なども置かれていない小さな部屋の中央には黒いローブを身につけた人物が仰向けに横たわっていた。石畳の床には魔法陣が描かれていて、ほんのり薄青い蛍光色の光を放っている。目深にかぶったフードから綺麗な長い銀色の髪が流れていて、魔法陣の光に透けてキラキラしている。見た目に性別は判断できないが、それが男の人でアルフレートの師匠、クリスなのだということは、『ユメヒカ』をやっていた私と瑠果ちゃんは当然知っている。
ゲームでは、アルフレートが魔力を暴走させてしまい、止めようとしたお師匠さんはそれから時を止めたように眠ったまま。きっとこの世界でも同じような状況なのだろう。
アルフレートの肩からクリスが飛び降り、その人物の上に乗る。ゆらりと魔法陣の光が揺らめいたかと思うと、目の前に姿の透けた影が突然現れた。ローブで顔が見えないその人影は、目の前に横たわっているお師匠さんその人の……思念体と呼ぶのがいいだろうか。……青白く透けた姿は幽霊みたい。
「驚かないんだな、『神の御使い』」
お師匠さん──クリスのその言葉に、どう返事をしていいかわからない。だけど特に答えを求めてはいないようだ。
「師匠。ユウキを見てほしい。」
「わかってる」
少し近づくようにジェスチャーで示され、魔法陣まで足を進めると私の体の上から下まで手をかざす。なんだか体のなかをスキャンされているような気分だ。
「ふむ……特に魔力が枯渇しているわけでも対流していないわけでもないな」
体の中の魔力がするっと減る感覚がして、かざした手に光が集まるのを、ほら、と言うように見せてくれた。私の魔力、なんだろうか。取り出すとか可能なんだな……
「魔力と体に問題は無さそうだが……全体に強固な鍵がかかっているような印象だな。
うまく使えないのは、精神的な要因じゃないか?」
「……心当たりは?」
アルフレートの問いに、少し考えて首を縦に振る。心当たりはもちろん、ある。
恐らく、あの怪我をさせた出来事、魔力の暴走を起こした事が、殊の外私のなかで尾を引いているんだろう。たとえ治癒でも、魔力がうまく制御できなければ相手を傷つけるかもしれないと、無意識に思っているのかも、しれない。それに、危険なことには関わらなくていいと言ってもらってすごくほっとして──けれど、そこも胸に引っ掛かっている気がする。
あれからずっと、意図的に考えないようにしていたのに。急に耳鳴りが起きたように気が重くなった。瑠果ちゃんが心配げにこちらを伺っている。精神的なところが原因なら、これは私が自分でなんとかするしかない問題だ。
「……悠希さん」
瑠果ちゃんがそっと私の手をとった。私たちは『神の御使い』だからか、お互いの魔力が伝わりやすい。息を大きく吸って、吐く。握ってくれた手から流れてくる暖かい力に、きっと大丈夫、という気持ちが湧いてくる。
浄化はできるはずだ。念のため試してみようとは思うけれど、何故かそこは大丈夫なはずだと確信を持っていた。治癒が使えないのは困るけれど、魔法は使えなくてもいい。その為に弓もやっていたし、たとえ魔法が使えても、使えなくても、変わらない。守りたいなら、迷わないことだ。自分にできることをするんだ。中途半端な覚悟ではこの先通じない。難しいかもしれないけれど、改めてそう心に決めておきたかった。
「悠希さん!」
「瑠果ちゃん!」
笑顔の瑠果ちゃんが私をぎゅっと抱き締め手を取ってぶんぶんと振る。瑠果ちゃんの嬉しい気持ちがじんわり流れ込んでくる感じがするのが懐かしい。
「二人も元気そうだな!」
「レオンハルト、アルフレートも久しぶりですね」
定時連絡の時姿は見ていたけど、やっぱり実際に会うのとは違う。皆それぞれに言葉を交わして、しばらく無事の再会を喜んだ。
今後のことを相談したりしながら、改めて出発の準備を進める。これからはまた一緒のため、余分なものを手放したりで時間がかかる。今日はこのままこの小屋に泊まりだ。久しぶりのわいわいとした雰囲気のなか、アルフレートが私と瑠果ちゃんに声をかけた。
「ユウキ。それに、ルカも。ついてきて。」
二人で顔を見合わせる。小屋の中で準備をする皆を振り返ると、レオンハルトが行ってこいと手を振った。予め伝えてあるようだ。
家の外に出て手招きするアルフレートについていく。他の皆をあまり連れていきたくはないところ。そうなると、もしかして……
「ねぇアル、どこにいくの?」
「師匠のところ。」
アルフレートの言葉に、思わずその肩でもふもふとした尻尾を揺らすクリスを見てしまった。瑠果ちゃんにそっと視線を送ると首を横に振る。瑠果ちゃんもまだお師匠さんのことを知らないことになっているみたいだ。
「アルフレートのお師匠さんのところ?」
「ユウキ、魔法が使えなくなったんでしょ? 見てもらおうと思って。」
振り返らずに歩いていくアルフレートの代わりに、クリスがこちらを向いてチチッと鳴いた。ちゃんとついてこいよ、と言っているような気がする。
村から出て北の森へ入ると複雑な細い道を通って進んだ。そう遠くない距離のはずだけど、どこをどう曲がったかすぐにわからなくなってしまった。道を知らないと迷いそうだ。木々が鬱蒼として太陽の光があまり通らない、陰った場所にその小屋はひっそりとあった。扉に触れて魔力を通すとアルフレートは手招きをする。小屋の中へ足を踏み入れた途端、とても形容しがたい感覚を覚えた。もしかしたら何か結界の類いでも張られているのかもしれない。
「こっち。」
長い間帰っていなかったと思われるのに小屋の中はとても綺麗で、それに光で満ちている。アルフレートは一番奥の扉へ──部屋かと思ったら石造りの階段で、そのままコツコツと下へ降りていく。
たどり着いた地下室は少し寒くて薄暗い。特に家具なども置かれていない小さな部屋の中央には黒いローブを身につけた人物が仰向けに横たわっていた。石畳の床には魔法陣が描かれていて、ほんのり薄青い蛍光色の光を放っている。目深にかぶったフードから綺麗な長い銀色の髪が流れていて、魔法陣の光に透けてキラキラしている。見た目に性別は判断できないが、それが男の人でアルフレートの師匠、クリスなのだということは、『ユメヒカ』をやっていた私と瑠果ちゃんは当然知っている。
ゲームでは、アルフレートが魔力を暴走させてしまい、止めようとしたお師匠さんはそれから時を止めたように眠ったまま。きっとこの世界でも同じような状況なのだろう。
アルフレートの肩からクリスが飛び降り、その人物の上に乗る。ゆらりと魔法陣の光が揺らめいたかと思うと、目の前に姿の透けた影が突然現れた。ローブで顔が見えないその人影は、目の前に横たわっているお師匠さんその人の……思念体と呼ぶのがいいだろうか。……青白く透けた姿は幽霊みたい。
「驚かないんだな、『神の御使い』」
お師匠さん──クリスのその言葉に、どう返事をしていいかわからない。だけど特に答えを求めてはいないようだ。
「師匠。ユウキを見てほしい。」
「わかってる」
少し近づくようにジェスチャーで示され、魔法陣まで足を進めると私の体の上から下まで手をかざす。なんだか体のなかをスキャンされているような気分だ。
「ふむ……特に魔力が枯渇しているわけでも対流していないわけでもないな」
体の中の魔力がするっと減る感覚がして、かざした手に光が集まるのを、ほら、と言うように見せてくれた。私の魔力、なんだろうか。取り出すとか可能なんだな……
「魔力と体に問題は無さそうだが……全体に強固な鍵がかかっているような印象だな。
うまく使えないのは、精神的な要因じゃないか?」
「……心当たりは?」
アルフレートの問いに、少し考えて首を縦に振る。心当たりはもちろん、ある。
恐らく、あの怪我をさせた出来事、魔力の暴走を起こした事が、殊の外私のなかで尾を引いているんだろう。たとえ治癒でも、魔力がうまく制御できなければ相手を傷つけるかもしれないと、無意識に思っているのかも、しれない。それに、危険なことには関わらなくていいと言ってもらってすごくほっとして──けれど、そこも胸に引っ掛かっている気がする。
あれからずっと、意図的に考えないようにしていたのに。急に耳鳴りが起きたように気が重くなった。瑠果ちゃんが心配げにこちらを伺っている。精神的なところが原因なら、これは私が自分でなんとかするしかない問題だ。
「……悠希さん」
瑠果ちゃんがそっと私の手をとった。私たちは『神の御使い』だからか、お互いの魔力が伝わりやすい。息を大きく吸って、吐く。握ってくれた手から流れてくる暖かい力に、きっと大丈夫、という気持ちが湧いてくる。
浄化はできるはずだ。念のため試してみようとは思うけれど、何故かそこは大丈夫なはずだと確信を持っていた。治癒が使えないのは困るけれど、魔法は使えなくてもいい。その為に弓もやっていたし、たとえ魔法が使えても、使えなくても、変わらない。守りたいなら、迷わないことだ。自分にできることをするんだ。中途半端な覚悟ではこの先通じない。難しいかもしれないけれど、改めてそう心に決めておきたかった。