『異世界で本命キャラと恋に落ちたい。』
朝、少し早い時間に目が覚めたので、湖を見たくて外に出た。深呼吸すると朝特有の清んだ空気で肺が満たされて心地よい。
少し離れたところでレオンハルトが剣の素振りをしているのが見えた。毎日やっているのは知っていたけど、しっかり見るのは初めてかもしれない。ずっと思ってたけど、あの大きさでがっしりした剣は結構重量がありそう。軽々と振っているように見えるのがすごいなぁ。………うん、皆そうだけど、やはり顔がいい。さすが絵になる。
なんとはなしにその様子を見ていたら、レオンハルトは手を止めこちらを振り返った。
「やあユウキ、早いな」
「おはよう、レオンハルト。邪魔しちゃったかな」
「レオンでいいぞ! ちょうどもう終わりだったんだ」
「えっと……レオン。」
にこにこした笑顔の圧力に押されて希望通りの呼び方に変えると、満足そうに頷いた。
……レオンハルトがゲームの性格と一番違う気がしている。この世界のレオンハルトはなんとなくずれていて天然なところがあるし、アルフレートもどちらかと言うと人と違う独特の世界観を持っているというか、ぽやぽやしたところがあるので、二人だけで旅をしていたときがどんな風だったのかが気になるな。まあどちらも、戦いの時はとても頼りになるんだけれど。
「重そうなのに、毎日すごいね」
「ユウキも振ってみるか?」
「……いいの?」
「ああ」
大事な得物を、ほいほいと素人に触らせて良いんだろうか。でも、ちょっと持ってみたいという好奇心の方が勝った。
「ほら」
危なくないようにか、鞘に戻した剣を手渡してくれる。気をつけて受け取ったつもりだったけど、想定よりずしりと重くそれだけでバランスを崩してしまう。見よう見まねで剣道のように構えてみたけれど、構えのポーズを保つだけで腕がぷるぷるしてきた。結構弓を引いてる分筋肉は増えたと思っていたけれど、使う場所が違うのか。これは構えているだけで筋肉痛になるやつだ。これ以上は遠慮しておこう。
「私にはとても無理そうだな……ありがとう、レオン」
「はは、毎日鍛えればユウキにも扱えるようになるぞ」
それはもっともだ。でも、これで斬るというのは、ダイレクトにその感触が手に伝わるということだ。テオドールも武器はダガーだけど、やはり直接命を刈る感触というのは、想像するだけでも恐ろしい。
「ううん、私には、その覚悟が持てそうにないから。……ごめんなさい」
「謝る必要はない。ユウキとルカは穢れを祓う。俺たちは二人を守る。これは役割分担だからな」
人好きのしそうなにかっとした爽やかな笑顔が眩しい。バルトルトのときもそう思ったけど、ゲームである程度耐性をつけておいて良かった……いやそれでも、こんなに顔がよい人物の笑顔は、目の前で見ると破壊力がすごい。髪が金髪なのもあって、キラキラと後光が差しているみたいだ。
「そういえば、テオドールとは大分打ち解けたんだな」
「えっっ」
まさかレオンハルトの口からテオドールの話題が出てくると思わなくて、わかりやすく動揺してしまった。
「最初の頃はあいつが苦手なんだと思っていたから、仲が良さそうで安心した」
たぶんレオンハルトに100%他意はない。ないんだろうけど。つい数日前の崖でのことも思い出して、顔が熱くなる。いやいやあれからもいつも通りに接してるし、私たちは普段と何も変わりないはずだ。
──急に背筋に悪寒が走った。穢れの気配だ。さっきまで全く感じなかったのに。
「悠希さん、レオン!」
瑠果ちゃんがこちらに駆け寄ってくる。きっと同じく穢れの気配を感じたんだろう。
「どうした、ルカ」
「たぶん湖に、なにかいる」
私もその言葉に頷く。とりあえず他の皆にも伝えに行こうとしたところで──突然足に何かが巻き付いた。
「なんだ?!」
そのまま引き倒されて、ざぶん、と体が水に沈んだ。思わず声を上げてしまったせいで少し水を飲んだ。水のなかで目を凝らすと、湖の底のほうに黒い穢れの塊が見える。尖った手のような形の触手が無数に伸びて、私たちをどんどん深みにひっぱっていった。
すぐさま瑠果ちゃんが魔物の本体部分に光の玉を放った。怯んだのか私たちを拘束していた黒くて細い手が緩むが離れない。レオンハルトも絡み付く触手を斬るが、次々新しい手が伸びてきて捕まえてくる。水の中で戦うのは圧倒的に不利だ。浄化しないと離してくれないかもしれない。同じ事を瑠果ちゃんも思ったのか、私の方へ浄化の指輪を見せて振った。頷いて、一緒に浄化を試みる。
魔物の穢れが少しずつネックレスに吸い込まれていく。伸びてくる手の勢いが弱まり、レオンハルトが再び斬り落とした手もするすると流れていった。解放されて浮上し始めたけれど、酸素が足りなくて意識が朦朧としてきた。穢れの塊は薄れて、いる。あともう少し。上へ向かう私たちを追いかけてこようとする魔物に、水面側から起こった激しい水流がぶつかる。アルフレートの魔法だろうか。
大きな腕に抱えられ、ざばっと体を引き上げられる。空気と一緒に水が肺に流れ込んで激しく咳き込んだ。急な酸素に視界がチカチカとする。たぶん、ちゃんと浄化できたんだろうか。追撃はきていなさそうだ。
「ユウキ!」
「大丈夫ですか?!」
テオドールと、バルトルトだ。すぐに返事はできそうにないが何とか頷く。
「ルカ!」
すぐ近くでレオンハルトの鬼気迫る声がするので目を向けると、同じように引き上げられた瑠果ちゃんがぐったりとした様子で動かない。
「息、してない……!」
アルフレートの震える言葉に、皆が青ざめた。
少し離れたところでレオンハルトが剣の素振りをしているのが見えた。毎日やっているのは知っていたけど、しっかり見るのは初めてかもしれない。ずっと思ってたけど、あの大きさでがっしりした剣は結構重量がありそう。軽々と振っているように見えるのがすごいなぁ。………うん、皆そうだけど、やはり顔がいい。さすが絵になる。
なんとはなしにその様子を見ていたら、レオンハルトは手を止めこちらを振り返った。
「やあユウキ、早いな」
「おはよう、レオンハルト。邪魔しちゃったかな」
「レオンでいいぞ! ちょうどもう終わりだったんだ」
「えっと……レオン。」
にこにこした笑顔の圧力に押されて希望通りの呼び方に変えると、満足そうに頷いた。
……レオンハルトがゲームの性格と一番違う気がしている。この世界のレオンハルトはなんとなくずれていて天然なところがあるし、アルフレートもどちらかと言うと人と違う独特の世界観を持っているというか、ぽやぽやしたところがあるので、二人だけで旅をしていたときがどんな風だったのかが気になるな。まあどちらも、戦いの時はとても頼りになるんだけれど。
「重そうなのに、毎日すごいね」
「ユウキも振ってみるか?」
「……いいの?」
「ああ」
大事な得物を、ほいほいと素人に触らせて良いんだろうか。でも、ちょっと持ってみたいという好奇心の方が勝った。
「ほら」
危なくないようにか、鞘に戻した剣を手渡してくれる。気をつけて受け取ったつもりだったけど、想定よりずしりと重くそれだけでバランスを崩してしまう。見よう見まねで剣道のように構えてみたけれど、構えのポーズを保つだけで腕がぷるぷるしてきた。結構弓を引いてる分筋肉は増えたと思っていたけれど、使う場所が違うのか。これは構えているだけで筋肉痛になるやつだ。これ以上は遠慮しておこう。
「私にはとても無理そうだな……ありがとう、レオン」
「はは、毎日鍛えればユウキにも扱えるようになるぞ」
それはもっともだ。でも、これで斬るというのは、ダイレクトにその感触が手に伝わるということだ。テオドールも武器はダガーだけど、やはり直接命を刈る感触というのは、想像するだけでも恐ろしい。
「ううん、私には、その覚悟が持てそうにないから。……ごめんなさい」
「謝る必要はない。ユウキとルカは穢れを祓う。俺たちは二人を守る。これは役割分担だからな」
人好きのしそうなにかっとした爽やかな笑顔が眩しい。バルトルトのときもそう思ったけど、ゲームである程度耐性をつけておいて良かった……いやそれでも、こんなに顔がよい人物の笑顔は、目の前で見ると破壊力がすごい。髪が金髪なのもあって、キラキラと後光が差しているみたいだ。
「そういえば、テオドールとは大分打ち解けたんだな」
「えっっ」
まさかレオンハルトの口からテオドールの話題が出てくると思わなくて、わかりやすく動揺してしまった。
「最初の頃はあいつが苦手なんだと思っていたから、仲が良さそうで安心した」
たぶんレオンハルトに100%他意はない。ないんだろうけど。つい数日前の崖でのことも思い出して、顔が熱くなる。いやいやあれからもいつも通りに接してるし、私たちは普段と何も変わりないはずだ。
──急に背筋に悪寒が走った。穢れの気配だ。さっきまで全く感じなかったのに。
「悠希さん、レオン!」
瑠果ちゃんがこちらに駆け寄ってくる。きっと同じく穢れの気配を感じたんだろう。
「どうした、ルカ」
「たぶん湖に、なにかいる」
私もその言葉に頷く。とりあえず他の皆にも伝えに行こうとしたところで──突然足に何かが巻き付いた。
「なんだ?!」
そのまま引き倒されて、ざぶん、と体が水に沈んだ。思わず声を上げてしまったせいで少し水を飲んだ。水のなかで目を凝らすと、湖の底のほうに黒い穢れの塊が見える。尖った手のような形の触手が無数に伸びて、私たちをどんどん深みにひっぱっていった。
すぐさま瑠果ちゃんが魔物の本体部分に光の玉を放った。怯んだのか私たちを拘束していた黒くて細い手が緩むが離れない。レオンハルトも絡み付く触手を斬るが、次々新しい手が伸びてきて捕まえてくる。水の中で戦うのは圧倒的に不利だ。浄化しないと離してくれないかもしれない。同じ事を瑠果ちゃんも思ったのか、私の方へ浄化の指輪を見せて振った。頷いて、一緒に浄化を試みる。
魔物の穢れが少しずつネックレスに吸い込まれていく。伸びてくる手の勢いが弱まり、レオンハルトが再び斬り落とした手もするすると流れていった。解放されて浮上し始めたけれど、酸素が足りなくて意識が朦朧としてきた。穢れの塊は薄れて、いる。あともう少し。上へ向かう私たちを追いかけてこようとする魔物に、水面側から起こった激しい水流がぶつかる。アルフレートの魔法だろうか。
大きな腕に抱えられ、ざばっと体を引き上げられる。空気と一緒に水が肺に流れ込んで激しく咳き込んだ。急な酸素に視界がチカチカとする。たぶん、ちゃんと浄化できたんだろうか。追撃はきていなさそうだ。
「ユウキ!」
「大丈夫ですか?!」
テオドールと、バルトルトだ。すぐに返事はできそうにないが何とか頷く。
「ルカ!」
すぐ近くでレオンハルトの鬼気迫る声がするので目を向けると、同じように引き上げられた瑠果ちゃんがぐったりとした様子で動かない。
「息、してない……!」
アルフレートの震える言葉に、皆が青ざめた。