『異世界で本命キャラと恋に落ちたい。』
extra 扉の先に


 結果的に、二つの世界の行き来は可能でした。出迎えてくれた皆の前でもう一度扉を通って戻るのを試したのはちょっと滑稽な感じだったけれども、無事にまた会えたことを喜んでくれた。
 光の神に帰してもらったときと扉が繋がったときが例外だったようで、時間の流れについてはどちらの世界も同じようだった。これはとても安心したところだ。こちらでの数分が向こうでの数日、というのは困ってしまう。

 レオンハルトとアルフレートは一度それぞれの故郷に戻る。バルトルトももちろん村に戻るのだけど、二人はしばらく向こうの方でゆっくりしてくればどうですか、と……なんというか、一緒に帰るのをやんわりと遠回しに断られたような、気がする。以前の馬車の時のように道中ずっと見せつけられるのはごめんです、とバルトルトは言っていたけれど、何のことか私にはわからなかった。確かにいきなりこちらへ長期滞在はできないし、そんなわけで私とテオドールはひとまず私の家族に会いにいくことにした。

「契りの儀をするときは呼んでくれ!」
 別れ際、相変わらずのキラキラ笑顔でレオンハルトが言う。
「ちぎりのぎ?」
「婚礼。色々準備があるだろうし、すぐじゃないでしょ。」
「こんれい……」
 なるほどお互いに契りを交わすので、婚礼を契りの儀とも呼ぶらしい。
 そうか、婚礼。婚礼か。……婚礼。…………ずっと一緒にいるということは、もちろんそういうことな訳だけど、改めてその言葉を噛み締めるととても……そうか……
「日取りが決まれば、連絡する」
 さらっと二人にそう答えるテオドールの言葉に、堪らずに叫びだしてしまいそうな恥ずかしさと……胸が痛いぐらいの嬉しさとが戦っている。既に決定事項。そう思ってくれている。お祭りのとき着せてもらったあの民族衣装を思い出す。あれに似た衣装で、テオドールの隣に立つ、のだ。魔力があったらたぶん今、絶対に飛び出していってる。
「これからは姉さんとお呼びしたほうがいいでしょうか?」
 少しからかうような口調でバルトルトが尋ねる。これはちょっと楽しんでるな。姉さんと呼ばれるのはさすがにくすぐったい気分だ。
「えっと………呼びやすいほうで、どうぞ」
 熱くなる頬を誤魔化しながらなんとかそう答えると、隣にいたテオドールが笑う気配がして私の頭をくしゃくしゃとかきまぜる。
「それじゃあな!」
「また。」
「お気をつけて」
 口々に別れの言葉を言いながら、皆はそれぞれの方向へ旅立っていった。

 テオドールと一つ、約束をした。扉をくぐるときは、二人で一緒に。いずれどちらかの世界に落ち着くのだとしても、もし突然この力がなくなったとしても、離れないようにしたいから。
 隣に立つテオドールを見上げてそっと手を握ると、テオドールも微笑んでぎゅっと握り返してくれる。それだけで、何でも出来そうな気持ちになれる。ああ、どこにいても。この手を放さないでいれば大丈夫だ。暖かな気持ちを噛みしめて、私もテオドールに微笑み返した。

【One of THE END】
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