片翼を君にあげる①
制服に着替えて鞄を持ってダイニングキッチンへ向かおうと扉を開けると、フワッと香る甘い匂い。
一発で今朝の朝食が、母の得意なフレンチトーストだと気付く。
ふうっと溜め息に近い深呼吸をして気持ちを切り替えると、俺は表情を柔らかくして食卓に足を進めた。
「!……ツバサ、おはよう!」
「おはよう、母さん」
朝食の準備をしていた母親アカリは、起きてきた俺に気付くとパァッと花が咲いたような笑顔で迎えてくれる。
物心ついた頃から毎朝のようにこの笑顔を見ているが、何十年経っても変わらない少女のような母親だ。
席に着くと、母さんは出来立ての朝食が乗ったお皿を俺の前に置いて自分も正面の席に座る。
そして髪と同じくらい綺麗な漆黒の瞳に俺を映しながら、嬉しそうに見つめてくるんだ。
その眼差しに、俺は今日も応える。
「いただきます。
……うん、やっぱり母さんのフレンチトーストが1番だね」
「!……本当?嬉しい!」
元々甘めに味付けしてあるフレンチトーストに、添えてあるたっぷりのホイップクリームを付けて頬張る俺を見て、母さんが嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見て、俺は今日も大丈夫だと安心出来るんだ。