片翼を君にあげる①
***

『アッシュトゥーナ家ご令嬢レノアーノ様に、ドルゴア王国第一王子がご求婚(プロポーズ)!!』
『年内にもご結婚か……?!』

レノアの誕生日翌日、テレビや新聞で騒がれた報道。
二十歳の、しかも身分の高い女性なら当たり前の事かも知れないけど、僕には信じられなくて、驚きと衝撃がすごかった。
僕は成長したレノアを実際に見た事がない。だから、幼い頃のイメージが強いせいもあるだろうけど、やっぱり彼女の相手はツバサ以外にあり得ないと思っていたから……。


ーーけど。
絶対にその報道を知っている筈なのに、1週間過ぎてもツバサは動こうとしない。

なんで?
幼い頃のツバサなら……。夢の配達人でキラキラしていた頃のツバサなら、絶対にレノアの元に駆け付けて手を差し伸べている筈なのに。


「……やっぱり。レノアの誕生日前夜祭で、何かあったのかな?」

「何かって、なによ?」

自宅の台所。
仕事で帰宅の遅い両親の代わりに一緒に夕飯作りをしていると、ふと僕が呟いた言葉に姉さんが問い掛ける。


「ん〜、例えば……」

「例えば?」

「……レノアに、フラれちゃったとか?」

「!っ……」

「!っわわ……、姉さん!危ないッ、危ない……!」

問い掛けに答えると姉さんは手に持っていた材料入りのボールを落としかけて、慌てて僕がキャッチ。
なんとか中身をぶち撒ける事がなく「ふ〜っ」と一安心した後に目を向けると、姉さんはとても心配そうな表情で俯いていた。

心配なんだね、ツバサの事。
姉弟だもん。双子だもん。気付いてるよ?
姉さんが、恋愛感情でツバサを好きだって事も。叔父さん、姪っ子の関係で結婚なんて出来ないから、そう自分に言い聞かせて諦めようとしてる事も。
そして、ツバサがレノアと上手くいくように願っている事も……。

いつも元気に明るく振る舞っている姉が、時折見せる健気な姿。
僕はそれを見ると、まるで自分自身の事のようにすごく心が痛くなるんだ。
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