片翼を君にあげる①
ランとライが俺の為にレノアに会おうとしてくれていた、その頃。俺はそんな二人の気遣いも知らずに、休日の街中を歩いていた。
テストも無事に終わったし、来週にはそのテストが返ってきて、成績発表がされて、それが終われば夏休み。
普通の学生ならば、間近に迫った長期休みや花火大会などのお祭り行事に嬉々とする時期なんだろうな。
でも、俺は……。
「ーーお兄さん!ポケ電をお探しかい?」
「!っ……」
店員に声を掛けられてハッとする。
宛もなく気分転換の為に散歩していた俺は、いつの間にかポケ電ショップの前に来て、無意識に商品を手に取って見ていたのだ。
「それ、いいでしょう?最新の機種なんですよ!
あ、良かったら色違いもあります。お持ちしましょう……」
「いえ!っ……いい、です!ありがとうございますっ」
店員の言葉を遮りながら商品を飾られていた元の棚に戻すと、俺は即座にその場を離れた。
ポケ電を見るつもりなんてなかったのにーー。
そう思いながらも左手をズボンのポケットに突っ込めば、中には小さなメモ用紙。それはあの日、誕生日前夜祭の日にレノアに渡されたもの。
二つ折りにされた用紙を開けば、中には予想通りにポケ電の番号が記されていた。
『連絡して』と、言葉には出来なかった彼女からのメッセージだ。
「……ポケ電を買ったところで、何が変わる訳でもないのにな」
苦笑いと共に漏れた愚痴。
レノアに求婚したのは、ドルゴア王国の第一王子サリウス。
ドルゴアはこの国とは比べ物にならない大国だ。昔は荒涼とした砂漠しかなかったが、今では街も発展してビーチリゾートや幻想的な砂漠リゾートが楽しめる観光地としても有名になった。
きっとミネア様との婚姻でこの国で1番とも言えるホテルを建設している人物、ヴィンセント様との繋がり欲しさにレノアに求婚したのだろう。
サリウス王子は28歳。
ドルゴアは一夫多妻制、すでに正妃と三人の側室が居ると聞いた。
おそらくレノアに対して恋愛感情などなく、ただのこの国とホテル建設に関しての繋がりだけだ。
……けれど。
だからと言って、自分はどうする事も出来ない。
大国の王子様を相手に、ポケ電すら持っていない、買う事も出来ない自分が同じ土俵に立てる訳はなかった。