片翼を君にあげる①
「《……ごめん》」
「《?……ツバサ》」
「《何て返したらいいのか……分からない》」
暫しの沈黙の後、俺は素直にそう告げた。
曖昧に相槌を打ったり、当たり障りない事を言ったり、慰めやアドバイスも、言えない。せっかくジャナフが真剣な話をしてくれているのに、俺は何も言えなくてただ俯いた。
しかし。そんな自分を不甲斐なく感じていると、ジャナフから予想もしなかった言葉が返ってくる。
「《……そっか。ツバサ、ありがと!》」
「《!っ、え……?》」
まさかのお礼の言葉と共にずいっと距離を縮めてきたジャナフは、その身を俺に預けるかのように寄り掛かってくる。そして色んな意味で驚く俺に、彼は言葉を続けた。
「《大体みんなボクの家庭事情知ると「そんな事ないよ」とか、「君にも良いところはあるよ」とか、同情して変に慰めようとしてくるんだよね〜。
でもボク、そういう風に言われるの苦手でさ。……だから、ツバサのその素直な飾らない反応と言葉、嬉しい!》」
「《っ、ジャナフ……》」
「《"分からない"って言ったのは、投げやりな言葉じゃない。ボクの言った事を真剣に受け止めてくれたからでしょっ?
ツバサは本当に優しいね!ありがとう!》」
「《っ、……》」
何でだろう?泣きたくなるーー?
ジャナフの言葉に胸いっぱいに優しい温もりがじんわりと広がって、何故だか俺はそれをとても懐かしく感じた。
いつだったか、似たような気持ちになった事がある。
……ああ、そうだ。
ジャナフの言葉や行動は、父さんに似てるんだ。
『お父さんの言葉は夢の言葉、魔法の呪文なの。いつもお母さんやたくさんの人達を優しい、幸せな気持ちにしてくれるのよ』
母さんの言う通り、父さんが掛けてくれる言葉はいつも魔法のようだった。瞳の事で嫌な気持ちになったり、慣れない仕事に悩んで落ち込んだ時も、父さんはいち早く気付いて寄り添ってくれた。
人懐っこくて、誰にでも屈託なくて、一緒にいるといつの間にか気持ちが軽くなっていく……。
そんな父さんとジャナフは、何だか似てる気がした。
初対面の人になかなか心を開けない自分が、何故彼といるこの場に心地良さを感じるのか……。何となく、分かった。