片翼を君にあげる①
そしてジャナフと出逢った事は、父さんを失ってから自分の人生を見失っていた俺が新たに踏み出す大きな一歩に繋がり始めていた……、……。
「《ボクね、兄貴達に認めてもらえるように頑張るんだ!その為に、今日港街に来たんだよ!》」
「《……そうなんだ。ジャナフは、強いね》」
ジャナフの笑顔が、より一層眩しく映る。
どんな状況であろうと、むしろその屈強をバネに前を向いて真っ直ぐに向かっていくーー。
彼はそんなところも、大好きな俺の父さんに良く似ていた。
ジャナフの人柄と様子に絆されて、俺は彼が人と待ち合わせているという事をすっかり忘れていた。
……だから。この後、彼の口から出るある言葉に驚きを隠せなくなる。
「《ーー夢の配達人!》」
「《……っ、……え?》」
「《港街に住むツバサなら知ってるでしょ?人の夢を叶える何でも屋!
ボクね、夢の配達人になる為に港街に来たんだ!》」
「……」
頭の中が、一気に真っ白になった。
目の前のジャナフが、相変わらず明るく微笑って話しているのがしっかりと見えているし分かるのに……。俺の心はその事を拒否するかのように固まる。ずっと自ら引き離そうとしていた夢の配達人の事が迫ってきているという現実に、"嘘だ"と無駄な抵抗をしていた。
運命の刻はもう、始まっていたのにーー……。
「ーーあら?もしかして、ツバサ君ですか?」
「!!っ……」
その少し間の抜けたおっとりとした女性の声が、臆病な俺に現実を突き付ける。
「《!っ、わぁお〜!可愛子ちゃん発見!!》」
俺の視線の先にいる女性に気付いたジャナフは、俺とは真逆の歓喜の声を上げた。
薄い桜色のワンピースに白い上着、肩まで伸びた茶色の髪をフワッとさせた彼女は可愛い羊のぬいぐるみを連想させる、きっと誰が見ても清楚な女性。この人は、夢の配達人の秘書であり、ミライさんの妹。
……そう。夢の配達人最高責任者である、シュウさんの娘ノゾミさんだ。