片翼を君にあげる①

「ーー防ぐとはさすがだね、ツバサ」

自分の前にフッと影が出来て、優しい懐かしい声が聞こえた。
それなのに……。優しくて、懐かしい声の筈なのに俺の心と身体はブルッと震えた。
相手が誰なのか分かりながらも信じられなくて、俺はゆっくりと目の前に立ちはだかる人物を見上げる。

「ミラ、イ……さん?」

俺が名前を口にすると、目の合ったミライさんは茶色の髪を風に(なび)かせながらニコッと優しく微笑った。動きやすい男性用の緑色のチャイナ服に身を包んだその姿も、優しい笑顔も昔と変わらない。

でも、さっきの攻撃は……。俺に仕掛けた蹴りは、確かな殺意が溢れたものだった。
防御が間に合ったから良かったものの、まともにくらっていたら、顔の骨が砕けて、下手したら首が折れて……、……。


「……ーーいやっ!放してッ……!!」

「!!……レノア!?」

茫然としていた俺の耳に届いたレノアの叫び声。我に返って視線を向けると、頭にターバンを巻き、服装が白地のマキシ丈の……そう、ドルゴア地方の衣装を身に纏った数人の人物が彼女を取り囲み、捕らえていた。

「ははっ、困ったねぇ。レノアちゃん昔からお転婆だったけど、成長してもやっぱりじゃじゃ馬なんだなぁ〜」

「レノアッ……!!」

「おっと、邪魔するなよツバサ」

「!……ミライさん」

「僕の任務を妨害するつもりなら、次は確実に仕留めるよ?」

レノアの元に駆け寄ろうと立ち上がった俺の耳元で、ミライさんが囁く。

「っ……任、務?」

(とぼ)けるなよ、分かってるんだろ?僕の今の雇い主はドルゴア王国第一王子サリウス様。
今日はその花嫁候補であるレノアーノ様を連れ戻しに来たのさ」

ミライさんの雇い主が、ドルゴアの第一王子サリウスーー。

この場の状況を見て、混乱しながらもその可能性を考えなかった訳はない。
けど、信じたくなかった。何故なら"それ"はミライさんが、俺にとっての"敵"となる事を意味しているからだ。

昔、俺の夢の為に師匠として力を貸してくれて、全力で応援してくれた憧れの人が……。
今、俺の夢を阻む為に、厚い壁として立ちはだかっていた。
< 148 / 215 >

この作品をシェア

pagetop