片翼を君にあげる①
そしたらポタポタと止めどなく、膝で握っていた手の上に雫が落ちて来て……。
それを見て、俺はようやく自分が泣いている事に気付いた。
「っ?……え?ッ……あれ?っ……なんで、……」
止まらない。
拭っても拭っても、どんどん溢れて来て、止まらない。
それはきっと父が死んでから、ずっと堪えてきた全ての感情の涙だった。
認めたくなかった。
『聞いたぞ。ミライとの下克上間近だって?
やるな〜!さっすが、俺の息子だ!』
出張に行く日の朝。
お互い仕事ですれ違いだったけど久々に顔を合わせて、父さんは俺の頭をグシャグシャに撫でながら微笑った。
ちょうど恥ずかしい年頃で、俺は「やめろよ!」ってその手を退かしちゃったんだ。
『ツバサ。頑張れよ!あ、留守の間、母さんの事頼むからな!
じゃ、行ってくるわ!』
出掛ける際に父さんと母さんが交わすキスを見るのが恥ずかしくて、俺は早々に玄関から離れると、返事を返す事も、「いってらっしゃい」って声を掛ける事もしなかった。
あれが、最期だなんて思わなかった。
3日後には、また会えると思ってた。
偶然にも父さんの帰宅予定日に、最高責任者から下克上の日程を伝えられて……。俺は、1番に父さんと母さんに報告したくて、全速力で帰宅した。
予定ではもう父さんは帰宅してる時間で、きっと俺が下克上の事を伝えたら、母さんが「お祝いよ!」ってご馳走様を山程作ってくれて、父さんが「やったな!」って、いつもみたいに……、……。
……でも。
帰宅して扉を開けたら、玄関に父さんの靴はなくて……。代わりに映ったのは、姉貴の靴で……。
『ーーツバサ!
大変なのっ……父さんがッ……!!』
……
…………どうして、邪険にしちゃったんだろう?
もっと、頭を撫でてもらえば良かった。
「いってらっしゃい、父さんも頑張って!」って、何で言えなかったんだ?……ごめんね、父さん。
『っ……お願い、ツバサ!
危険な事はもうしないでッ……遠くに行かないでっ?
あなたにまで何かあったら、私はもうっ……生きていけないッ』
ーー留守の間、母さんの事頼むからな!ーー
……うん。分かったよ、父さん。
母さんの事は任せて。
絶対にその約束は守る。守るよ。
……っ、守る……から……さ。だから、……。