片翼を君にあげる①
外は雨。
日の長い夏だけど、さすがに夜になり電気を付けていない部屋は暗くなった。
ソファーで眠ってしまった我が子を起こしたくなくて、でもその寝顔をしっかりと見たくて、居間のテーブルの上にキャンドルを置いて仄かな灯りで過ごす事を決めた。
もうすぐ巣立ってしまうであろうこの子の姿をしっかりと目と心に焼き付けて、夜が明けたら飛び立つのを笑顔で見送ってあげようと決めていた。
ずっと縛ってしまっていた、私という鳥籠から……。
「大きく、なったなぁ……」
寝室から持ってきたタオルケットを掛けてやり、寄り添うように隣に座った。
大きくなっても、泣き疲れて眠る寝顔も、静かな寝息も変わらないように思う。……けど、もう大人。
私の心は、ずっとずっとこの子に護られてきたのだ、と今日実感した。
子供はみんな可愛い。
ヒナタも、ヒカルも、すごく良い子で立派に成長してくれた。自慢の愛おしい子供達。
けれど、歳の離れた末っ子という事もあり、私はついつい必要以上にツバサに構ってしまい、また執着してしまっていたと思う。
そして、この子が"ヴァロンにそっくりな男の子がほしい"と言う願いを叶えて産まれて来てくれたから……。
私とヴァロンは愛し合っていたけれど、様々な事情で一度離縁して……。私が25歳の誕生日に再婚した。
二度目の結婚式の日。私が以前から言っていた願いを覚えていたヴァロンが「アカリの願いを叶える」と約束してくれた。
嬉しかった。その願いが叶うかも知れない期待は勿論、何よりも彼が、私の願いを覚えていてくれたから。
ヴァロンが戻って来て、家族みんなで過ごせるようになって、幸せで幸せで……。
でも、私の願いが叶う事は、簡単ではなかった。
離れている間に、ヴァロンは深い心の傷を負っていて……。そのせいで、子供を作れる精神状態ではなかったのだ。
思うように私に触れられなくて、その度に「ごめん」って謝る彼が本当に辛そうで……。もう諦めようとも考えた。
ヴァロンが居て、ヒナタが居て、ヒカルが居る。それだけで、私は充分に幸せだったから……。