片翼を君にあげる①

でも。
そんな母さんに甘えたまま、「はい、行ってきます」なんて言えない。しっかり、自分の口で伝えなくては……。

俺の、決意をーー。

「母さん。俺、進学しない」

「うん」

「学校辞める」

「うん」

「俺、夢の配達人になりたい」

「うん」

「好きな子が、いるんだ」

「……そっか」

「白金バッジの、夢の配達人になる」

「うん」

「今後はその子の為に……。
いや、自分の夢の為に、俺は生きたい!」

俺の言葉に、ずっと相槌を打っていた母さんが大きく満足気に頷く。

「……うんっ!
それでいい。自由に羽ばたきなさい、ツバサ!」

この瞬間、俺の足枷は砕けてなくなった。
大きな音を立てて砕けるんじゃなくて、静かに、サラサラと砂のように、優しく、消えていったんだ。


「……でも、1つだけ気になる」

「え?」

「好きな子、って……母さんより?」

「!……え?」

「昨日母さんが初恋って言ったじゃない?その子と母さん、どっちが好き?」

「ええっ?!」

母さんは、俺を揶揄(からか)ってそう質問した。
でも、拗ねた表情をした母さんの演技があんまりにも迫真だったから、騙された俺は結構本気で戸惑う。

「そ、そんなん……比べられねぇよっ。
母さんと、その子は……どっちも大事で…………」

「ーーふふっ、あははははッ……!!」

そしたら、引っかかった俺を見て、母さんが笑った。
大きな声を出して、昔みたいに、笑った。

全てを乗り越えた、証。
俺も、母さんも、しっかりと明るい未来を歩み始めた。

……
…………。

そして俺は、母さんから受け取った父さんのスーツに着替えると、始まりの場所へ向かった。
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