片翼を君にあげる①
ツバサとの初デートから、1週間が過ぎた。
ここは、異国の宮殿をモチーフに建てられた、家と言うよりお城のような創りのアッシュトゥーナ家の本邸。
ミネア母様が嫁ぐ事になって、初めて一緒にここへ来た時はその余りの煌びやかさと広さに驚いて、暫くは案内してくれる使用人がいなくてはまともに歩けなかった。
お邸の周りを取り囲むような緑溢れるプール付きのお庭。休日にはヴィンセント父様が趣味のゴルフを楽しんだり、訪れた来客とティーパーティーを楽しめる。
そんな家の娘になった私への待遇も、血の繋がりがないとはいえ全く劣る事はない。
広くて、何不自由ない調度品が整ったお部屋。
けれど、本当の意味で私の心を喜ばせてくれる物は何もない。
そう、ツバサがくれた過去の手紙や、誕生日に貰った夜空のブローチ以外になかった。
もう戻らない、と決めた筈だったのに、連れ戻されてしまった。
私にとって全力の抵抗や足掻きも、こんなにも簡単に抑え込まれてしまうのだ、と思い知った。
でもまさか、サリウス様が夢の配達人を……。しかも、あのミライさんを雇っているなんて思わなかった。
それにミライさんが、この時期にドルゴアに雇われる道を選ぶなんて……。
ミライさんは私達が幼い頃、時々遊んでくれた優しいお兄さん。そしてツバサの師匠で、良く様々な訓練を一緒にやっている姿を見ていた。
それなのに、1週間前のミライさんはあの頃とは別人で、ツバサの事を一方的に殴り付けていた。
「っ……ツバサ」
夜空のブローチを握り締めながら今日も私は彼を想う。
あんなに殴られて、怪我は大丈夫だろうか?
気を失った彼をあの場に残して来てしまったが、途中から降り始めた雨。
無事に自宅に戻れた?風邪なんか引いてない?
……今、何をしているの?
口ばかりで、大した力なんてないクセに私が会いに行ったりしたから、ツバサを辛い目に遭わせてしまった。
目を閉じた私の中に浮かぶのは、別れ際のツバサ。
私があげた夜空のペンダントに口付けながら微笑んでくれた、彼。
あの時のツバサが私に示してくれた姿を、自分は今も都合の良いように解釈している。
彼の想いは私と一緒だ、とーー。