片翼を君にあげる①
ヴィンセント父様。
淡い茶色の髪に瞳。
見事な髭を生やしていてキリッとしたお顔立ちだったから、最初会った時は怖い方だと思った。
……けど、…………。
『こんにちは、レノアーノ!
まずは色んな話をしようか?好きな事でも、これからしたい事でも何でもいい。
何でもいいから聞かせておくれ?君を知りたいんだ』
父親というものを知らない私に、そっと歩み寄ってくれた。
『夢の配達人が好きなのか?ならばコソコソする必要はない。
おい、夢の配達人の雑誌や新聞を片っ端から集めてやってくれ!』
ツバサの事を隠していたのに私にそう言って、使用人達に命じて毎月全ての夢の配達人の雑誌や新聞を集めてくれた。
『レオ、いいな〜優しいお姉ちゃんで。レノアーノがしっかりしているから、私も安心だよ!』
レオが産まれて、本当の娘ではない私はいらないんじゃないか?って不安に包まれる中。
ヴィンセント父様は全く変わる事はなかった。
……どんどん、どんどん。
思い出が溢れて来て、胸が締め付けられる。
あんなに覚悟を決めた筈だったのに、いざって瞬間に思い知る。
ヴィンセント父様を大切に想っている自分がいる事。
血の繋がり?
そんなもの無くたって、ヴィンセント父様は私にとって大切な父親だった。
決意が揺らいだ心が表れるように、小刻みに震える自分の手。
……でも。私にはツバサを諦める事も出来なかった。
どちらも大切で、天秤に掛ける事なんて出来ない。
……けど。っ……けど、…………ッ。
ツバサにもう二度と逢えなくなったら、私はきっと、心を失くして死んでしまう。
「っ……申し上げます。私は……」
「ーー申し訳ありませんが、そのお話は即答致し兼ねます」
ーーえ、っ?
震える口を開いた私の言葉を、ヴィンセント父様が遮って言った。
その言葉には私だけではなく、その場に居た全ての人が驚き表情を変える。記者達は小さく騒つく。
これまで表情を変えなかったサリウス様も、ピクッと反応して真顔になった。
隣に居た私が横顔を見つめるとヴィンセント父様は正面を向いたまま、片手で膝の上に置いて震えていた私の手をそっと包むように握ってくれた。