片翼を君にあげる①
「茶番もうよろしいですかな?ヴィンセント殿」
ハッと現実に戻される。
テーブルを叩いて、これまでとは声色が変わってそう言ったのはリヴァル様。
「この場でそのような発言、その態度、我が主を侮辱していると取られても仕方ありませんぞ……!」
「ーー良い、リヴァル」
険悪な場としかかった応接間。
しかし。感情的になったリヴァル様を宥めたのは、予想外の人物。サリウス様だった。
「!……しかし、っ……サリウス様ッ」
「良いと言っているのだ。
少し黙っておれ、リヴァル」
「っ、……はっ」
サリウス様に嗜められて、リヴァル様は頭を下げると一歩後ろに下がった。
「我が部下の無礼をお許し下さい。
こちらも手荒な事をするつもりはないのです。出来れば互いにとって、友好かつ平和な未来を、と思っております」
これまで無口だったのが信じられない位、サリウス様は話し始めた。
冷静で、丁寧で、全くカタコトにならずスムーズにこちらの言葉を話す彼は、自国で賢明な次期国王と言われている事が嘘ではない事を明らかにしていた。
「それに、誤解がないように申し上げますが……。私はレノアーノ様を愛しております」
「!……え?」
「お会いしてたった数回で何を言う、と思われるかも知れませんが、私にとったら回数など問題ではありません。
一目見たその瞬間から、と言いますか……。レノアーノ様の瞳には、強い熱がございます」
「っ、……」
「私は、その熱に焼かれたい、と感じたのです。
決して道具などではなく、良き夫婦になれたら、と思います」
サリウス様はそう告げると、私を見つめて微笑った。
その表情からは、確かに敵意は感じない。話してみたら、実は優しい方なのかも知れないと言う思いが湧かない訳ではない。
けれど、それだけだ。
ツバサは私への深い想いを口にしてくれた事はないけれど、不器用な言葉や態度が、私の全てを幸せにしてくれる。
自分の気持ちを正直に言ってしまいたい気持ちがあった。
が、ツバサの事を話に出してしまえば、それはまた彼を巻き込んでしまう事になるかも知れない。
今度は前回よりも、大きな大きな事件に……。