片翼を君にあげる①
扉を開けて中に入った瞬間、真っ先に俺の視線に飛び込んできたのはミライさんだった。
ミライさんも俺を見てて、一瞬だけフッと笑う。その様子から、この人は俺が今日ここに来る事を予想していたのだとすぐに悟った。やはり侮れない相手。
けれど、今日の敵はミライさんじゃない。
ドルゴア王国次期国王、第一王子サリウス様。
この人を説き伏せて、なんとか交渉を成立させなくてはならない。レノアとの婚姻抜きに、アッシュトゥーナ家と俺達の国がドルゴアと友好な関係を持てる事を……。
もう一度夢の配達人になりたい、と言う俺を快く受け入れてくれて、知恵を貸してくれた最高責任者。
そして、俺なんかの話に耳を傾けてくれて、大事な交渉の場を託してくれたヴィンセント様の為にも。
俺は、絶対にこの場をどうにかして見せる。
「夢の、配達人……。
これは、予想外の展開だね。まずは話を聞こうか」
「ありがとうございます」
サリウス様は案外スムーズに俺に話す事を許してくれた。
余裕のある、大人の男性。
扉の外である程度の会話は聞いていたが、柔らかい中に隙がない、一見優しそうだが彼にとって不利益なもの、不都合な事があれば即座に決断して一刀両断されてしまうだろう。
また短い時間でそれを判断出来る頭の良さと性格は、次期国王として申し分ないと、敵ながら認めざる得ない。
そんな相手を、まずはこちらの条件に興味を持たせなくてはいけない。
相手が好きそうな、そんな事を交えて……。
「ーーでは、申し上げます。
サリウス様には、私と勝負をして頂きたいのです」
「!……ほぅ」
サリウス様が笑った。
"勝負"。ドルゴアは武術を誇る国、誰よりも強く、誰よりも上へと欲望を持つ者が多い国だ。
つまり、極度の負けず嫌いが多く、いずれその1番上に立つであろう彼もまた、誰よりも勝負事が好き。
「ははっ、君は面白い事を言うね。余程、自分の腕に自信があるのかな?
しかし、失礼ながら……見た感じ、君がそれ程武道や武術に優れているとは思えない。我が国の一般兵でも倒せるかどうか、じゃないかな?」
サリウス様の言葉に、後ろに下がっていたリヴァルとか言う執事も堪えたように笑う。
舐められたもんだ。
けど、確かに今の俺じゃ、そう見縊られても仕方ない。
それに、今はそんな事にめくじらを立てている場合じゃない。とりあえず、相手が俺の言葉に乗っかり始めてる。出だしは順調だ。