片翼を君にあげる①
「私は、現在銀バッジになったばかりの名も知られていない夢の配達人です。
ですが、1年の間に上位の金バッジ7名、そちらにいらっしゃるミライさんを含めた白金バッジ3名に勝負を挑み、その全てのバッジをこの手にしてご覧にいれます!」
これが、今の俺に出来る精一杯だ。
金もない、地位もない。
だから、それを築きながら俺はレノアの事を護ってみせる。
……さぁ、どうだ?
後はこの勝負に、サリウス様が乗っかるかどうかーー……。
「ーー実に面白い」
サリウス様が、まるで獲物を見るような眼光で俺を見て笑った。
「ツバサ、と言ったな。
いいぞ、お前はなかなか面白い。自らをストイックに追い込む人間は嫌いじゃないからな」
「光栄です」
鋭い眼光と言葉は、一切一致していない。
いや、面白い、とは思っているに違いないが、サリウス様は俺がその目標を達成出来るなんて微塵も思っていなければ……。ボロボロに潰される姿を想像して、笑っているのだ。
とは言え、相手が俺の持ち出した勝負を気に入ったのは事実。
あとは、最後の課題をクリア出来れば……。
「いいだろう、その勝負を受けよう。
……だが。こちらからも一つ、いいかな?」
「勿論です」
「君がその勝負に負けた際は、どうする?」
これが、最後の課題だ。
「私は君が提案した勝負を呑み、約1年間と言う期間を待つんだ。
その結果次第で私はレノアーノ様を手に入れ、家と国の繁栄の為の絆を得られるとしても、少々割りに合わないとは思わないかね?」
もっともな意見。
ヴィンセント様が一度レノアの婚姻を断り、次に提示した内容はこちらが決めた勝負事。
今、こちら側は相手に貸しが二つある、という状況だ。
正式に交渉を成立させる為には、相手にとってこれ以上ない、と思わせるものを献上しなくてはならない。
「君が1年以内に全ての下克上を達成出来なかった際、私が得られる物は何かな?
私が満足出来るような物を差し出してくれるのなら、君の言う勝負を受けよう」
サリウス様に問われた俺は、隠れ家で最高責任者と話をした際の事を思い出していた。